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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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35. 指名手配犯

 窓から差し込む日差しが顔に当たる。

 目を開けると、いつの間にか朝になっていたようだ。

 エイドは物音を立てないようにゆっくりと起き上がると、隣ではフラムとエアリアがまだ眠っていた。


(昨日は色々あったからな……)


 そんなことを思っていると、気配を感じてテーブルの方を見る。そこには、何かを考えているかのように腕を組んで眠っているミネットの姿があった。いい夢でも見ているのか、笑いながら、涎を垂らしている。


(これが死神か。随分可愛らしい死神だな……)


 そんなことを思いながら、エイドはミネットの顔をみて微笑むと静かに外に出る。

 朝早いのか、少しだけ冷たさを感じる風を浴びて、背筋を伸ばす。

 そして、足元に広がる廃れた村を見る。

 やはり、誰かがいるような気配もないし、人の陰すら見えない。


(動く体力すらないのか……)


 そんなことを思っていると、村の外から何者かがやってくるのが見える。

 目を凝らしてみると、それは甲冑に身を包んだ衛兵だった。


(衛兵が何でこんなところに?)


 よく観察すると、その後ろには荷車に大きな袋を乗せている。

 衛兵は村の真ん中に行くと、村全体に聞こえるように大きな声で言う。


「配給の時間だ!速やかに受け取りに来い!」


 その言葉に吸い付けられるように、建物の陰からぞろぞろと人が集まってくる。

 それを見下すように衛兵は鼻で笑うと、後ろにいるもう一人の衛兵に合図する。そして、荷車の袋を乱雑に村人たちの前に投げる。


「今日の分はそれだけだ。それでは」


 村人たちがその袋の中身を空けると、中にはカビの生えたパンに腐りかけで少し臭う肉。食べかけのチーズなど、まるで人が食べる者とは思えないようなものばかりだった。

 それにくわえて、量は大人の摂取量で計算しても一週間分の食料しかない。

 村人は子供や大人を合わせても百人はいる。どう考えても足りない。

 村人たちは何か言いたげだったが、声を出す元気も残っていない。


「今日の配給はこれだけだ。本来なら、納税もしないようなお前らなんぞにやるのがもったいない所を、我らが王が恵んでくださっているのだ!文句など出るはずもなかろう」


 まるで愚民を見下すような目をして言う衛兵は、吐き捨てるように言うと、村を後にした。

 残された村人たちは、子供と女性を優先して食料を配り始める。それでも、一人にいきわたった量はわずか一食に届くかどうかの量だった。

 その光景を目の当たりにしたエイドは、はらわたが煮えくりかえるような感覚を覚えながら、拳を握りしめる。


「酷いもんだよな」


 背伸びをしながら、エイドに話しかけるミネット。


「人間にできる芸当じゃねえ。あいつらは、人の皮を被った化け物さ」


 ミネットはポケットから小さな袋を取り出すと、その中に入っていたものを頬張った。それは、何かの肉のようで、香ばしい香りが漂ってくる。


「それより、なんで国を出ていかった?」

「見てわかるだろ?みんな疲れてたんだ。それに、俺も今起きたとこだしな」

「まあ、しょうがないか」


 その時、エイドの腹が空気を読まずにギュルギュルと音を立てる。

 顔を赤らめるエイドに、ミネットは微笑みながら、自分が頬張っているものと同じものを放り投げる。受け取って中を見ると、拳骨くらいの肉の塊が入っていた。


「《ラットワップ》の名物、シャインミートのステーキだ。持ってくるときに団子になっちまったけど」


 受け取ったのはいいものの、エイドは村人たちのことを考え、食べるのを躊躇っていた。


「変な事すんじゃねえぞ?」


 自分の考えていることを読まれたかと思ったエイドは、驚いてミネットの顔を見る。しかし、ミネットは手に持っていた肉を一気に頬張った。


「食って、力に変えろ。そして、力なきものを救え。これは恩人が言ってた言葉だ。村人たち(彼ら)に対して、お前ができる唯一のことだ。だから、黙って食え」


 エイドはじっと肉を見つめる。

 香ばしい香りと、あまじょっぱいソースの香りに、何も食べていなかった腹がよこせと言っている。

 エイドは一口で肉を頬張ると、良く味わって飲み込んだ。


「ごちそうさまでした!」


 心の底から出たエイドの言葉に、ミネットはくすっと笑っていた。

 エイドは腹を満たすと、ミネットに改まって言う。


「そういえば、名前言ってなかったよな。俺は――」

「エイド・フローリアでしょ?」


 名乗る前に自分の名前を言い当てたことに、驚きを隠せないエイド。


「なんで知って――」

「あの女冒険者はエアリア・ユースト、んで、男の方はフラム・マトリカリア。あの女の子はヒスイだっけ?」


 名前を言い当てたミネットに、言葉を失うエイド。それを見てニヤニヤと笑っているミネットは何やら紙を取り出した。


「何で知ってるのって顔だね。だって、君たち、有名人だもん」


 エイドは紙を受け取ると、その内容に目を疑った。


『昨晩、衛兵を襲った国家反逆罪の指名手配犯、以下三名の情報求む

 《エイド・フローリア》《エアリア・ユースト》《フラム・マトリカリア》』


 名前と共に、いつの間にか取られた顔写真まで、丁寧に記載されていた。


「どういうことだよ!俺らは襲われた側だろ!?」

「裏の顔はね。表はこの国の立派な衛兵さんだ。当然、こうなるだろうね。しかも、親切に国際手配までしてある。だから早く国を出ろって言ったのに」


 最初から分かっていたかのような口ぶりで、ミネットは言った。

 国際手配となると、大陸中に広まることになる。そうなれば、国から出たとしても、別の国で捕まる恐れもある。


「てことは、この国から出るには、何とかしてこの誤解をとなくちゃいけないってことか!?」

「その通り。よかったね、ゆっくり観光できそうじゃん」


 からかっているような口調で言うミネットの目の前で、頭を抱えて項垂れるエイド。

 そこへ、大きなあくびをしながら、エアリアがやってきた。


「おはようエイド……って、どったの?」


 半目でいかにも寝起きだったエアリアに紙を見せる。

 最初はぼーっと読んでいたが、内容を理解した瞬間、倍以上に目を見開いて驚く。


「何よこれ!?襲われたのは私達の方でしょ!?」

「そのくだりはさっきやったよ」


 エイドは怠そうに言うと、エアリアは地面に体育座りして、砂をいじりはじめた。

 

「朝っぱらからうるせえな。何の騒ぎだよ」


 長髪を束ねながらやってきたフラムは、エアリアの横にあった紙を拾い上げる。そして、そのまま、地面に膝を着いて崩れ落ちた。


「君たち仲が良いね」


 その様子を見ていたミネットは冗談交じりに言った。

 ミネットはフードを被ると、どこかへ行こうとする。


「どこ行くんだよ?」


 エイドが尋ねると、ミネットは適当に答える。


「食料調達。腹が減っては戦はできぬってね」


 お面を付けると、目にもとまらぬ速さで目の前から消えてしまった。

 残されたエイド達は、今後の方針について話をすることにした。


「これからどうするよ?」

「どうするって、この手配書を破棄してもらうように殴り込みに行きましょ!」

「馬鹿言え、それじゃあ、闇ギルドとつながってる国が素直に破棄する分けねえだろ?」

「じゃあ、フラムはなんか案あるの?」

「それをこれから考えるんだろ」


 三人は腕を組んで頭を働かせる。すると、エアリアとフラムの腹が同時になった。


「お前ら真面目に考えろよ」

「仕方ねえだろ。昨日の夜から何も食ってないんだからよ」

「エイドだってお腹減って――」


 と、何かに気が付いたエアリアは、グイっとエイドとの距離を詰める。

 急に近づかれたエイドは、少し顔を赤らめて咄嗟に距離を取ろうとする。


「な、なんだよ?」


 エアリアはエイドの服の匂いを嗅ぎ始めた。胸の辺りから次第に、腕に移って最後に手の匂いを嗅いだ。すると、目を見開いて、痴漢を捕まえた時のように、エイドの腕を掴み強引に上にあげる。


「フラム先生!!この人、肉食ってます!!」


 見事に言い当てたエアリアの嗅覚に、エイドは反射的に恐怖を覚えた。


「おい、何一人で飯食ってんだよ?俺らの分はどうした?」

「そ、それは――」


 二人から睨まれるエイドは命の危機を感じとり、


「すいませんでした!!」


 渾身の土下座をして謝った。

 それを見たエアリアは、腰に手を当ててため息を漏らす。


「しょうがない。取り合えず、食料調達に行こうか」


 すると、何かを思い出したようにフラムが言う。


「でもよ、この国は狩が禁止されてんだろ?」

「私達もう犯罪者なんだし、気にすることないでしょ」

「それもそうか」

「よし、じゃあさっそく準備して、狩りに行くぞ!」


 張り切って拳を上げるエアリアに賛同するように、エイドも拳を上げた。

 

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