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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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29. 死神の噂

 エイド達は魔導車に乗り、《ラットワップ》を目指している。

 《ロドゴスト》からの道は、《スタルト村》からの道に比べれば、普段から馬車の往来も多く、かなり楽な道のりだ。何しろ、森を抜ける必要もないし、前のように迷うこともない。

 魔導車の快適さもあって、後ろの乗客席で横になっているエイドとエアリアは大きなあくびをしていた。


「「ふああぁああぁああ…………暇だ…………」」


 まるで液体のように座席にもたれかかっている二人に対し、綺麗な姿勢で真面目に本を読むヒスイ。


「だったら本でも読んだらいいよ。エイド兄ちゃんとエアリアには知性が足りないみたいだし」


 その声が聞こえていたのか、運転席にいるフラムは吹き出して、ごまかすように咳払いをしたのが聞こえてきた。

 エイドとエアリアは、自分より年下の子供にこんなことを言われて悔しいが、事実であり、何も言い返せないという、複雑な心境だった。

 落ち込んでいたエアリアはふとヒスイが読んでいる本に目を向けた。本のタイトルは『魔法の奇跡』というものだった。

 村で出会った時もずっと魔法に関する本を読んでいたが、余程魔法に興味があるのだろうと、エアリアは思った。その時、とあることに気が付いた。


「そういえば、ヒスイちゃんって英雄譚に出てくる大賢者『マーリン』に似ているよね」


 それを聞いて、本を読むヒスイの手が止まった。そして、目だけをエアリアの方に向ける。

 すると、エイドはヒスイの顔をよく見るために体を起こす。


「確かに、改めて見ると似てるな。髪の色とか特に」


 まじまじと見られるヒスイは恥ずかしいのか、本で顔を隠す。


 エアリアが言う『マーリン』とは、かつて勇者と共に旅をしたエルフ族だ。特徴的な緑色の髪をなびかせて、敵地を舞う。その姿は女神が踊っているようだったと言われている。

 彼女が舞った後に残るのは、破壊と創造。悪は滅され、善には救いの手を差し伸べる。

 自分の目を疑ってしまう不可解な力を振るい、あらゆる奇跡を巻き起こす彼女をこう呼んだ――

『大賢者』と。


 エアリアは本で顔を隠すヒスイを見ながら言う。


「だって、魔法がこんなに得意だし、髪の色も似てるし……もしかして、マーリンだったりして!」


 冗談交じりに言うエアリアに、エイドは思わず吹き出してしまった。


「ぷっ!はっはっは!んなわけねーだろ!大体、魔王が倒されたのは二百年も前の話だぞ?いくら長命のエルフ族だって、こんな子供なわけないだろ。そんなんだから知性が無いって言われるんだよ」


 からかうように言うエイドに便乗するように、ヒスイも言う。


「そうそう。常識的に考えればわかること。エアリアはやっぱり知性がない」


 そういって再び本の続きを読み始める。

 二人から馬鹿にされたエアリアは頬を膨らませていた。


「何よ!ありえないことではないでしょ!?生まれ変わりとかあるかもしれないじゃん!マーリンがそういう魔法を使ったかもしれないじゃん!魔法は不可能を可能にする奇跡の技なんでしょ!?」


 エアリアはヒスイに訴えるように大きな声を出す。


「魔法だからって何でもできるわけじゃないよ。出来ないことだってある。死んだ人を生き返らせるとか、過去に戻って歴史を変えるとかね」


 怒りに取り乱すエアリアに対し、いたって冷静に答えるヒスイにエアリアはなんだか馬鹿らしくなって静かになってしまった。

 そんな会話をしていると、運転席の小窓をフラムが二回ノックする。

 エイドは何事かと、小窓を開ける。


「知性のないお二人さんに朗報だ」


 フラムは進行方向を指さす。

 その先には、《スタルト村》より一回り大きな村が見えてきた。


「お待ちかね、《ラットワップ》の入り口、《アイトーン村》だ」


《ラットワップ》の領地の一番端に位置する《アイトーン村》。そのため、《ラットワップ》の入り口とも言われている。

 旅をするものは、この村で休息をとってから、《ラットワップ》に向かうというのが普通だ。


「ここからが新しい冒険の地、《ラットワップ》か……!」


 エイドは目を輝かせ、これから起こる出来事に期待をよせる。近くにいたエアリアもそわそわとして落ち着かない様子だ。

 しばらくして、村の小さな門を通り抜けるエイド達。

 村に人たちは、めったに見ることのない魔導車に驚いた様子だった。

 次第に周りには人が集まってきており、エイド達が降りる頃には、人に囲まれていた。


「すごいね兄ちゃん達!貴族かなんかの人かい?」

「私達冒険者なんです」


 後ろから荷物をもって降りてきたエアリアが答えると、周りの村人たちはじっとエイド達を見つめる。すると、驚いたような顔をした。


「もしかして、あんた達新聞にのってた冒険者じゃないか!?」


 それをきっかけに、村の人達はざわざわと騒ぎ始める。

 あの新聞に載っただけで後も違うのかと、エイドは少し驚いていた。


「ところであんたらここに来たってことは、《ラットワップ》に向かうのかい?」

「はい!今日はここで休憩してから、明日には向かおうと思ってます」


 エアリアが説明すると、村の人達はなにか気になることでもあるのか、少し曇った様子だった。


「悪いことは言わねえからやめときな」

「なんか訳あり見てえだな」


 フラムは声に不安な感情が含まれている事に気が付き、聞き返す。


「今のあの国には、どうも良くない噂が流れてるんだ」

「噂ってどんな?」


 村人は渋っていたが、重い口をなんとか開いた。


「死神だ……白い死神が出るんだとよ……」

「死神?」


 エイドは思いもよらぬ単語が飛び出し、思わず聞き返してしまう。


「何でも、夜に現れるそいつは、白い仮面をかぶって、逃げ惑う人たちを嬉々として襲っては、足の健を斬って歩けなくしてしまうらしい」

「うわ~趣味悪~い」


 話を聞いたエアリアは苦いお茶でも飲んだかのような顔になっていた。

 隣りにいたエイドも大きなため息を漏らす。


「ついこの間までゴタゴタに巻き込まれたのに、また巻き込まれるなんてごめんだぞ」

「俺は気になるぜ?一度見て見たかったんだよな~神ってやつ」


 フラムはその死神と呼ばれるものをからかうように笑っていた。


「そうだよ!ここまでスイーツを諦めることなんてできない!」 


 エイドは一人気合が入っているエアリアに大きなため息を漏らす。

 ここまで来たのなら、一度国へ行ってからの方が、次の目的地の選択肢も増えるだろう。


「それもそうか。せっかくきたんだし、一目見に行くか。今は取り合えず、宿を探しに行こうぜ」


 エイドは皆に言うと、皆は頷いて賛成した。




 そして、夜が明け、エイド達は村を出発しようとしていた。

 フラムが魔導車の調整をしていた時、村の人が心配そうな顔をしていた。


「本当に行かれるのですか?」

「ああ。こいつがどうしてもスイーツが食べたいって聞かないんで」


 我儘な子供の親のような気持ちになりながら、エイドはエアリアのほうを見て言う。エアリアは恥ずかしさをごまかすように笑った。


「こっちは準備終わったぞ」

「サンキュー、フラム。それじゃあ、俺たちはこれで」

「ああ。気を付けてな」


 エイド達は魔導車に乗り込むと、《ラットワップ》を目指して出発した。その姿が小さくなるまで、見送っていた村の人は未だ心配した表情をしていた。

 すると、様子を見に来た女の人が見送っていた村の人に聞く。


「あのことは彼らに言ったんですか?」

「いや、観光で行くなら、言う必要もないだろう」


 そう答えると二人は村に戻っていった。


 

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