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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第二章:囚われの猛獣編
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囚われの猛獣 プロローグ

 辺りは静寂に包まれている。

 虫の鳴き声や、風で揺れる草木の音すらも聞こえない。それに加え、今宵は月が手に届くほど大きく、そして美しく輝いているように見える。

 そんな風情を感じる街の夜に、似つかわしくない音が響き渡る。砂を巻き上げるように、足を必死にばたつかせながら走る足音、そして震えるような慌ただしい呼吸音が三つ。どれも、男のものだった。


「はぁ……はぁ……!クッソ……!なんで俺らがこんな――」


 男の一人が声を荒げた瞬間、足が思うように動かなくなる。走る勢いを殺すことも出来ず、顔から倒れ、数回転がるとようやく動きを止める。

 体を強く打ち付け、鈍い痛みをあちこちに感じる。しかし、それよりも、足の方に焼けるような痛みを感じる。

 視線を移すと、右の足の腱が切られ、赤くどろどろとした液体があふれ出している。それに気が付いた瞬間、男の体中を電撃のような痛みが駆け巡る。

 男は息を大きく吸い、痛みに悶えようとした瞬間――


「ダメだろ?こんなに静かな夜に大声出しちゃ」


 黒いフードに身を包み、模様が入った白いお面を被った人が、口を力強く抑え、声が出せなくなった男の耳元で小さく囁いた。

 お面を被ったその人のもう片方の手には、血が伝う短剣が握られている。

 男は、恐怖のあまりぶるぶると震えだし、涙があふれ出す。

 お面を被った人は、口を押えたまま、短剣を喉元に持っていく。月明りに当てられた短剣は、青白く輝き異様な雰囲気を放っていた。

 男は、全力で首を振って逃れようとするが、恐怖で体が動かない。

 男の首に冷たい金属が触れる感覚が襲う。その時――


「死ねぇぇえええ!」


 雄たけびと共に、振り上げられた鋭い剣がお面の人を襲う。男と一緒に逃げていた仲間だ。

 しかし、お面の人は振り向く来はなく、いつの間にか姿を消した。

 男が目の前から消えたことに気が付いた時には、すでに背後に回っていた。背後に回っていただけではない。両足の腱を絶たれていたのだ。

 お面の人は短剣に着いた血を振り払うと、鮮血が近くにあった壁に飛び散る。

 口を開け、大声で叫ぼうとする男の口に、いつの間にか破り取っていた男の服の切れ端を強引に突っ込む。

 ダメ押しに口を強引に閉じるように、顎をしたから突き上げると、男は気を失ってそのまま倒れこむ。

 お面の人は、面の下から残り一人の男を睨む。

 男は、情けない声を上げながら武器を地面に落とすと、汗と涙を流しながす。


「わ、悪かった!この通りだ!」


 がたがたと震える男に、お面の人は呆れるように肩をすくめる。

 男は許してもらえたと思ったのか、転がるように逃げ出す。


(バケモンが!次あった時は絶対にぶっ殺して――)


 と、心の中で叫んでいたその時、背中に針で刺されたような鋭い痛みが襲う。決して耐えられない程の痛みではなかった。にもかかわらず、心臓が鼓動をうった瞬間、全身の血管を針で突き刺されたような激痛が襲う。

 全身がしびれ、呼吸すらままならない。まるで雷に打たれたようだ。

 男は、石になったように固まったまま地面に倒れこむと、後ろの方からゆっくりと足音が聞こえてくる。

 歩くたびに、靴と地面が擦れる音が恐怖を煽ってくる。一歩、また一歩と、近づいてくる。そして、近くに来た足音はようやく鳴りやむ。

 その時には、男の全身の穴という穴から液体が出ているのではないかと錯覚するほど、汗が止まらなかった。

 お面の人は突っ伏している男に言う。


「逃がすと思った?お前らみたいな奴は何があっても絶対に許さないよ」


 その声は、誰が聞いてもわかるほど怒りに満ちていた。

 お面の人は、短剣を強く握り、足の腱目掛けて大きく振るった――




 夜が再び静寂を取り戻し、街は眠りにつく。

 しかし、眠る街を見渡すように、高い家の屋根に、お面の人は座っている。すると、心が安らぐような透き通る声が当たりに響く。お面の人が月を見上げながら鼻歌を歌っていたのだ。

 歌い終えると、お面に手を添えてゆっくりと外す。お面の下には、色白の滑らかな肌に整った顔立ちの少女だった。透き通るような緑にやや黄色が混じったような瞳は、どこか悲しさを帯びている。


「待っててね、みんな。必ず、救って見せるから」


 少女は月を見上げながら呟くと、再び面を付けて立ち上がる。何か覚悟を決めたように、彼女は屋根から飛び降りると、闇の中に消えていった――


 少女は一人苦悩する。

 自分がやっていることは正しいことなのか。それは、誰かのためになっているのか。

 しかし、立ち止まることはできない。振り返ることもない。

 少女はただ、前に向かって歩み続ける。

 これ以上、大切なものを失わないように――

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