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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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28. 怪しい影

 エイド達は城門前に並ぶ、見送りの人達に手を振りながら、人が歩く速度で魔導車を走らせる。


「いや~、いろいろあったけど、一件落着だな」


 エイドの言葉に、横を歩くエアリア達が笑って頷いた。

 すると、フラムは少しかしこまった様子でエイド達に言う。


「その、なんだ。これからはよろしくな」


 初めて会った時の威勢の良さがなくなっていたフラムを見て、少し緊張しているのに気が付いたエイドは鼻で笑った。


「らしくねえな。初めて会ったときは、がん飛ばしてきたくせに、今じゃかわいくなっちゃってさ」

「う、うるせえよ。それはお前が喧嘩吹っ掛けてきたからだろ?」


 少し顔を赤くして反論するフラムにエアリアが、


「まあまあ、これからは仲間なんだから!よろしくね!」


 これでもかと、背中を平手でたたきまくる。

 そんなほのぼのとした光景を魔導車の運転席近くの小窓から覗いてたヒスイがエイドに聞く。


「エイド兄ちゃん、次の目的地は決まったの?」

「ああ、それなんだけど――」

「次の目的地は、豊穣の国、《ラットワップ》に行こうと思うの!」


 エイドの会話に割って入ったのは、ワクワクを抑えられない無邪気な子供のような眼差しをしたエアリアだった。


「《ラットワップ》っていやあ、食べ物がうまいって評判の国だな」

「そう!!」


 呟くように言ったフラムに、エアリアは顔に穴が開いたかと思うほどの勢いで指をさす。


「ずっと行ってみたかったんだ~。あそこのスイーツが絶品らしくてさ~」


 涎を垂らしながら、幸せそうな顔で想像するエアリアに、周りの三人は軽く引いていた。


 大陸にある7ヵ国のうちの一つ《ラットワップ》は、《ロドゴスト》の西に位置していて隣国である。

 エアリアがフラムが言うように、豊穣の国と呼ばれるほど、作物の栽培や酪農が盛んだ。

 《ラットワップ》産の野菜や果物、肉を食べたら、他の物が食べられなくなると、言われるほど食べ物がおいしいという。噂では、この国を訪れた冒険者の半数以上が、食べすぎによる肥満で引退したとかしないとか。


 我に返ったエアリアは、涎を拭い、咳ばらいをして続ける。


「と、とにかく、目的地は《ラットワップ》!新たなわくわくを目指して出発だ!」

「何でお前が仕切ってんだよ。それに、そっちは南だぞ」


 エイドは張り切って進行方向とは違う方向を指さすエアリアに言う。それに顔を赤くしな反論している。

 その様子を、高くそびえたつ城壁の上から見ている人影が二つある。

 深くフードを被っていて良くは見えないが、一人の目は赤く輝いている。


「あいつが噂の勇者ってやつ?」


 青い目をしたその人物は、声は子供のように若々しい少年のような声だった。少年が見つめる先には、いがみ合っているエイドとエアリアの姿があった。

 隣にいるもう一人は、小さく頷くと、青い目の少年は小さく笑った。


「へえ、()()は女なんだね」


 少年はそう言ったあと、隣にいるエイドの視線を移す。


「で、あれが噂の?」


 少年の隣にいる人物は、再び頷く。その拍子に、口元がうっすらと見えたが、微かに笑っているように見えた。

 青い目の少年は期待外れのものを見たかのように大きなため息を吐く。


「あんたが見たいって言うから来てみれば、どっちも大したことなさそうじゃん。ちょっとがっかり」


 少年がそう言った瞬間だった。


『まあ、そういうなよ』


 少年の脳に直接流れ込んでくる声。正確には、声として聞こえているわけではない。音は無いが、脳が直接、音としてではなく文字として読み取り、勝手に意味を理解しているような、気持ちの悪い感じだ。

 少年はむすっとして様子で隣の人物に言う。


「ねえ、ちょっとそれ止めてくれる?気持ち悪い」

『すまない』

「だ~か~ら~!やるなって!」


 肩を小刻みに揺らして笑っているフードを被った人物に、少年は嫌そうな顔をして怒鳴る。

 青い目の少年は、退屈そうに聞いた。


「で、どうすんの?これで終わり?」


 もう一人の人物は、顎に手を当て、しばらく考える。


『今は泳がせておこう。今回の件で、()()()が注目するだろ。そうなれば、今僕たちが直接てをくだす必要もないだろ。それに――』


 苦虫を嚙み潰したような顔で説明を聞く少年に、続けて言う。


()()()が動き出した。そっちの方が最優先だ』


 その言葉に、少年の顔つきが変わる。


「ああ。あの最強とか言われているあの男か」

『ああ。とにかく、今は戻るのが先決だ』

「予想より早かったね」


 二人は、立ち上がるとエイド達を見下ろす。


「またどこかで、エイド君」


 少年が笑って呟くと、黒い影のようなものが二人を包む。そして、風に乗って影が消えた時には姿を消していた。

 エイドは何か嫌なものを感じ取り、立ち止まると、二人がいた門の上を見る。しかし、そこには何もない。


「どうしたの?」


 エアリアは不思議そうに聞くが、エイドはどう説明してよいかもわからず、


「いや、なんでもない」


 と、ごまかす。エアリアとフラムは特に気にすることもなく、再び歩き出す。


 新たなる冒険を求めて次の目的地を目指すエイド達に忍び寄る不穏な影。しかし、エイド達はまだ気が付いていない。すでに、底が見えない陰に片足を突っ込んでしまっていることに――

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