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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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26. 全てを飲み込む悪魔

 《フィオーレ》を手に入れたエアリアは軽い足取りで街の中を歩いていた。その後ろに、荷車を引っ張るエイドとフラム、そして、荷車に乗るヒスイとヒバナがいた。

 鍛冶屋を後にしたみんなは、度に必要なものを仕入れるために街を歩いていた。

 あちこちから木を打つ音や、金属を打つ音、男たちの掛け声が響き渡っている。あれだけのことがあったというのに、街の人はこの状況すらも、どこか楽しんでいる様子だった。

 普段、あまり関わることのない、防具を買う客の冒険者とそれを売る鍛冶氏のドワーフが、一緒になってものを直したり、作っている。きっと、お互いに普段できないことをできることが楽しいのだろう。

 エアリアはその様子を見て、自然と笑みがこぼれていた。


「いいな~なんか、いいな~」

「お前、さっきからそれしか言ってないじゃん」

「いや~だってさ、こういうのいいじゃん?」

「わかるけど、もっと色々あるだろ」

「いいもの見ると、語彙力は下がるもんでしょ?」

「いや、訳わかんねえよ。なんだそれ」


 謎理論を言い出すエアリアに、エイドは理解ができなかったが、強引に理解したということにした。

 ほのぼのとした雰囲気を堪能しているエアリアとともに、エイド達が歩いている。そして、店が多く集まる、街の中央の方までやってきた。

 すると、フラムはなにかに気が付き、俯いていた。その様子に気がついたエイドが周りを見渡すと、フラムが俯いている理由がわかった。

 街の人達の視線が、一気にこちらへ集まっていたのだ。

 エイドはフラムの過去のことを思い出し、やってしまったと、少し反省した。


「悪い、気が利かなくて。大丈夫か?」

「ああ。気にすんな」


 いくらトラウマを克服したとはいえ、幼い頃から何年もの間、冷たい視線をあびせられたのだ。気にしないようにしても、体が本能的に覚えてしまっているのだ。

 ここで逃げてしまっては、今までと同じだ。立ち向かわなければ、何も変わらないと、フラムは呼吸を整え、心を落ち着かせる。

 手にじんわりと汗がにじむのを感じる。と、その時、こちらを見ている母親のもとにいた男の子が、一人走ってきた。

 フラムの前に止まると、男の子はじっとフラムの顔を見つめる。反応に困っていると、男の子はフラムに指をさし、母親の方を見ていう。


「やっぱり、この人だよ!僕を助けてくれたの!」


 フラムはどこかで助けたかと思い出そうとするが、あの混乱の中、がむしゃらに剣を振りながら走っていた。誰を助けたかも、いつ助けたかも覚えていない。

 すると、男の子に続き、母親が前に出てくる。


「あ、あなたが、この子を?」


 フラムは視線を外しながら、そっけない態度で答える。


「わかんねえ。覚えてない」


 すると、男の子は首を横に振る。


「お兄ちゃんだよ!だって、この街の赤い髪のお兄ちゃんって、お兄ちゃんしか知らないもん!すっごい、かっこよかったんだよ!一発で魔獣倒しちゃうんだ!」


 男の子は腕を大きく振って、その時のフラムを再現してみせる。それを見た母親は、目から涙が零れ落ちそうなほど、うるうるとしていた。と、その時だった。


「うちの子を、助けていただき、ありがとうございます……」


 母親は、勢いよく腰を折り、深々と頭を下げた。

 今までにない光景に、フラムは動揺している。なんて声をかければいい。散々、罵られ、蔑まれ、拒絶されてきた相手に、礼を言われている。

 今更機嫌取りでもするつもりなのか?なんか裏でもあるのか?

 フラムが戸惑っていると、周りにいた人たちが次々に集まってくる。


「ちょっと、これどういうこと!?」


 話がつかめないエアリアは、軽くパニックになっていた。

 街の人達が、フラムの前にぞろぞろとならぶ。そして、一斉に頭を下げた。


「この街を守ってくれてありがとう」

「息子を救ってくれてありがとう」

「あなたに命を救われました。本当にありがとうございます」


 四方から飛んでくる感謝の声に、フラムの脳内はもうぐしゃぐしゃになっていた。あれだけ、俺らに散々言ってきた人たちが、なぜ頭を下げている。これで許されるとでも思っているのか?俺らの生きて生きた十年は、こんなことで許されていいのか?

 しかし、怒りの感情の傍らに、どこか嬉しいという感情が紛れている。自分たちを見ていなかった人たちが、ようやく見てくれたことに対する感情。

 二つの感情が入り混じるフラムは、一度冷静にならなければと、瞳を閉じ、呼吸を整える。

 すると、群れの中の先頭にいる人が、大きな声を出す。


「俺たちは取り返しのつかないことをした。一つの誤った情報を鵜呑みにして、君たちを加害者へと仕立て上げてしまった。この国を救ったのが君たちだと聞いて驚いた。同時に、自分がやってきたことを大いに恥じた。君たちは心優しい人だというのに」


 その言葉を聞いたフラムは思わず目をあけてしまう。


「あの日の出来事を聞いたよ。あのとき、君を犯人を言った彼女は、自分の娘と息子を失った腹いせに、君を犯人仕立て上げてしまったと。だからといって、私達が君たちを悪魔の子だと罵倒していいい理由にはならない。それに今まで気が付かなかったのは、私達の責任だ」


 フラムは拳を握りしめる。


「今更どの口が言ってんだ!俺らがどれだけ苦しんだかわかるか!?人に合うたびに、罵声をあびせられ、顔を殴られ、腹を蹴られた!そんな生活を八年も続けていた!八年もだ!飯もろくに食わせてもらえないときだったあった!残飯を漁って、毎日を生きるので必死だった!そんな八年間を、頭下げただけで許せっていうのかよ!」


 声を荒げて叫んだフラムは、肩で息をしている。自分でも驚く程に、口から自分の今まで思っていたことがあふれだ。

 後ろの台車に乗るヒバナは、過去のことを思い出し、感情がこみ上げて涙が流れ落ちている。


「今、俺の妹が泣いているの理由がわかるか!お前らのせいだ!こいつが何をしたってんだ……!目の前で母親を失い、辛かったこいつに……お前らが何をしたかわかってんのか……俺らが…………お前らに…………一体、何したってんだよ…………」


 拳を握りしめ、歯を食いしばるフラムの目には、薄っすらと涙が浮かんでいる。それを落ちないようにと、必死に堪えている。

 街の人達は地面に膝をつき、頭を擦り付ける。


「許してくれなんて都合のいいことは言えない!だが、せめて、償わせてほしい!どんな罰も受けよう!君たちが望むのなら、命を落としたって文句は言えない。私達はそれだけのことをしてきたのだから」


 目の前から、必死に謝罪の声が飛びかっている。耳が良いフラムにとって、それが本心であるのは容易に分かった。だからこそ、戸惑っていたのだ。

 フラムは、俯いたまま考える。

 俺らは目の前で母親を失った、この事件の被害者だ。だが、隣に住んでいた女性も、愛する娘と息子を失った被害者なのだ。

 気が動転して他人を貶めることで、気を紛らわせていたのかもしれない。あの人だって、この事件の被害者なのだから。

 だからといって、この理不尽な出来事を許すわけではない。

 ここで目の前の人達を一人ずつ殴っていったとして、俺の心は満たされるのか?それは、目の前の人達にとって、自分への怒りを煽ってしまうだけなのではないか?なら、俺がするべきことはなにか。答えは自然と導き出された。

 フラムは深呼吸をして、重い口を開く。


「俺はあんたらを許すことはない。でも、この怒りをあんたらにぶつけたところで、なんの解決にもならない。だから、この怒りは俺が飲み込んでやる。お前もだ、ヒスイ。お前の怒りも、悔しさも、何もかも俺が全部飲み込んでやる」

「でも、それじゃあお兄ちゃんは――」


 ヒスイの言葉を遮るように、フラムは頭を撫でる。


「俺は、悪魔の子だからな。悪魔ってのは、人の苦しみとかが大好物って決まってんだよ」


 皮肉交じりに言うフラムは、一息すって続けた。


「もし、あんたらが心の底から償いたいと思うなら、俺の願いを聞いてくれ」


 街の人達は涙を流しながら何度も返事をする。


「もちろんだ!どんなことだって言ってくれ!」


 フラムはその返事に安心して、願いを伝えた――




 その頃、ヴェルフは自分の店の修繕に勤しんでいた。

 近くにあった廃材を運んだり、鉄を溶かして新たな部品を作る作業と、一人でやるにはかなりの労力だった。

 更に、今日は天気がよく、日差しが肌に突き刺さるように暑かった。

 額に浮かぶ汗を何度も拭うが、少し動くと湧き出るように溢れ出す。


「ふぅ、俺も歳をとったもんだ」


 腰をとんとんと叩きながら、一息つく。

 実は、ヴェルフの建物を直す手伝いをすると、エイド達は言っていたのだが、


『お前らの手を借りるまでもねえ。俺ひとりで十分だ』


 と見栄を張ってしまったことがことの発端だった。

 こんなことになるなら、素直に手伝ってもらえばよかったと、少し反省していた。


「人でが足んねえな。これじゃ、日が暮れちまうぜ」


 愚痴をこぼしながら、木材を加工していくヴェルフ。その時だった。

 街の方から、地面を伝って小さな揺れがこちらに近づいてくる。

 ヴェルフは作業を止め、街の方を見ると、遠くの方で砂埃が立っているのが見える。目を細めてみるが、何が砂埃を上げているのかはわかない。


「なんじゃありゃ?祭りでもしてんのか?」


 のんきなことを言いながら、ポケットに入っている小型の望遠鏡を取り出して覗いた。すると、顎が外れそうな程大きな口を開けている。

 無理もない。何故なら、ヒバナを先頭にして、百人を超えるだろう人の群れが、物凄い勢いでこちらに向かって来る。


「どうなってる!?いったい何の騒ぎだ!?」


 ヴェルフは建物に残っていた盾を慌てて持ってくると、もう片方に金槌を持って身構える。

 次第に近づいてくる人の群れ。すでに肉眼で確認できる距離に近づいた時、先頭にいたヒバナが手を振っているのが見えた。


「ヴェルじい~!」


 ヒバナはヴェルフの元にたどり着くと、街の人達はヴェルフをあっという間に囲んでしまった。


「あんたがヴェルフさんか!」

「人手が足りなんだろ!何か手伝わせてくれ!」

「足りないものがあるなら、何でも言ってくれ!資材ならたんまりあるからよ!」

「お腹すいてないかい?ご飯作ろうか?」


 いきなりきたとおもったら、仕事をくれと迫る人たちに、ヴェルフはパニックになっていた。そして、ヒバナがいたことを思い出し、名前を呼ぶ。


「ヒバナ!これはどういうことだ!?」

「色々あって、お兄ちゃんが――」


 人にもみくちゃにされながらも、ヴェルフに説明をすると、話を聞いたヴェルフは目を丸くした。

 すると、力ずくで人を跳ね除ける。


「仕事が欲しいならくれてやるからちょっと待ってろ!!」


 ヴェルフは血相を変えて、街の方へと走っていってしまった。

 それを見たヒバナは笑っていた。


「ほんと、素直じゃないよね~」

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