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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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25.フィオーレ

 エイド達はヴェルフの鍛冶屋へと向かっていた。街の外れ通って来たが、やはり、街の中心でなくとも、建物が魔獣の被害にあっていた。それでも、冒険者やドワーフの活躍もあって、ほとんどが修繕されてきていた。

 ヴェルフの鍛冶屋が見えるところまできたエイドとエアリアは目の前の光景に驚いていた。


「ひどいやられようだな……」

「でも、流石ドワーフだね。柱がしっかりしてるから、完全に崩れずに済んだんだろうね」


 鍛冶屋は、屋根と壁には大きな穴が空き、今にも崩れそうだったが、柱のおかげでなんとか建っているという状態だった。その中でも、生活するための部屋は壁が頑丈だったのか、初めて見た時の形を保っていた。

 エイドとエアリアの声が聞こえたのか、鍛冶屋の中から、ヒスイとヒバナが慌てた様子で出てくる。


「エイドさん!もう大丈夫なんですか?」

「おうよ!見ての通り、完全復活だぜ!」


 腕を曲げ、力こぶを強調するようにいうエイド。そんなエイドを不満そうな顔をしながらヒスイが言う。


「無事なら何かしら連絡よこしなよ」

「しょうがないだろ。王様が城に誰も入れるなって言ったんだからよ。それに、怪我の具合とかはフラムから聞いてただろ?」

「まあ、そうだけど……」


 不満そうにうつむくヒスイに、少し困ったエイドだったが、頭に手を乗せると、乱暴に撫で回す。


「でも、ヒスイが無事で良かった!」


 ヒスイはエイドの手を振り払うと、顔を赤くしながら乱れた髪を直す。すると、会話に引き寄せられるように、建物の奥からヴェルフが歩いてくる。


「なんだ、生きてたかわんぱく坊主」

「あんたもな、じいさん」


 皮肉を言うヴェルフにエイドは笑いながらがら答える。元気そうなヴェルフを見たエアリアは、みんなが無事だったことに少しホッとした。

 すると、話したいことを思い出したのか、ヒバナがエイドの前に立って言う。


「そうだ!エイドさん!ヒスイちゃんって凄いんだよ!ヒスイちゃんの魔法で、襲って来る魔獣なんか、バーってやっつけちゃって!」


 ヒバナは両手を広げて、興奮した様子で話す。その様子を見たエイドは、彼女を守ることができたという実感が湧き、同時に何事もなくてよかったという安堵から、自然に笑みがこぼれてしまった。

 そんなエイドを見たヒバナは、首をかしげて聞く。


「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」


 エイドはヒバナの頭に軽くポンと乗せる。ヒバナは少し照れ臭そうに笑って俯いていた。

 すると、咳ばらいをしてヴェルフが間に入る。


「まあ、積もる話は後にしろや。おい、嬢ちゃんとわんぱく坊主。奥に来い」


 ヴェルフは、エイドとエアリアに店に来るように言う。二人は、ヴェルフの言う通り、後に続いて店の奥へと入る。

 部屋は表の鍛冶をするところとは異なり、生活感が漂う。台所に食器棚。部屋の真ん中には丸い卓が置かれている。


「まあ、座れや」

「座るって言ったって……」


 卓の周りは、脱ぎ捨てられた服や、食器が散乱していた。

 すると、後ろから遅れて入ってきたヒバナが言う。


「ごめね。ヴェルフじいは、()()氏なのに()()が全くできなんだよ」

「誰が上手いこと言えって言ったよ!」


 ヴェルフは厳重に保管されている棚を開けながら、ヒバナに言った。そして、棚から上質な布に覆われた、筒状のものを取り出す。それを、卓の上に置くと、縛っていた紐を優しく、解いていく。そして、エアリアはそれが何かに気が付いた。


「これって……」


 ヴェルフが取り出したのは、白を基調とした神々しく、黒い模様が波のように入っている鞘だった。光が当たるたびに、鞘は輝きを帯びて、自ら発光していると錯覚するほど、艶があり表面が滑らかだ。

 ヴェルフは剣を持つと、エアリアに無言で渡す。

 エアリアは受け取ると、手にずっしりと伝わってくる重さを感じた。剣の重さというより、ヴェルフの想いがたくさんこもっている、重圧感のようなものだった。

 エアリアは唾を飲みこみ、剣を鞘から引き抜く。

 刀身に自分の顔が映るほど輝いていて、何とも言えぬ威圧感がある。隙間風が刃に当たると、風が裂け、楽器のような独特な音が鳴る。指で軽く触れただけでも、誤って切り落としてしまいそうな程、切れ味が良いのを感じる。


「古代のドラゴンの鱗を使った鞘に、聖剣に使われているアダマンタイトの次に硬度がある、ダマスカス鋼を使った剣だ。ドラゴンの一撃でも食らわん限り、折れることはない」


 ドラゴンの鱗は、現在でもかなり貴重な品で、拳一つ分の大きさでも、金貨一枚で取引されるほど、高価なものだ。更に、ダマスカス鋼を使った剣は一般的にも金貨十枚を軽く超えると言われている。

 ヴェルフは続けて言った。


「お前ら、剣が要るんだろ?もってけ」


 エアリアは剣を鞘に納めると、ゆっくりと卓の上に戻す。


「こんな高価なものいただけません。それに、この剣を使うには、私は相応しくない」

 

 エアリアは少し悲しそうに俯く。

 今回の戦いで改めて感じた。自分はまだまだ未熟なのだと。こんな剣を持っては、宝の持ち腐れだし、ヴェルフに対して失礼に当たると、エアリアは感じていたのだ。

 ヴェルフはエアリアの気持ちを察したのか、ため息交じりにエアリアに言う。


「剣ってのはな、使い手によって初めて価値が決まる。俺は、金のために剣を作ってるんじゃねえ。俺の剣を使った使い手の名が知れ渡った瞬間。それが、俺にとっての生きがいであり、俺が剣を作る意味だ」


 ヴェルフは剣をエアリアの前に持っていくと、続けて言った。


「剣は使い手の命を守るもの。俺は剣を打つことしかできねえ。世界を回ることも、一緒に戦うことも出来ねえ。だから、せめて、俺の魂を込めたこの剣を連れて行ってくれねえか?守らせくれねえか?」


 ヴェルフの言葉が深く胸を打つ。その時、ふとバッツの言葉を思い出した。

 ヴェルフは剣を作る人を選ぶ。その意味が、ようやく分かった。

 彼は、正真正銘、本物の鍛冶氏なのだ。

 エアリアは剣を受け取ると、強く握りしめる。


「わかりました。ヴェルフさんの意思は確かに受け取りました」


 エアリアは真直ぐにヴェルフの目を見る。


「私は、この剣に相応しい冒険者になって見せます!」


 その眼は迷いがなく、透き通った純粋な瞳だった。その瞳を見たヴェルフは、過去の記憶がよみがえる。

 過去にも、同じ瞳をした青年に、剣を作ったことがあった。その青年も、彼女と同じことを言っていたことを思い出す。

 剣をもらった青年は、その言葉の通り力をつけていき、名の知れた男になった。ヴェルフは新聞で度々目にしているにも関わらず、その男は、冒険者としての階級が上がるたびに伝書鳩を飛ばし、嬉しそうに現状を綴っていた。

 過去の思い出に浸っていたヴェルフは優しく笑う。


「ありがとう」


 いつになく素直なヴェルフに、フラムとヒバナは少し驚いた顔をしていた。今まで、二人は素直にお礼すら言われたことがなかった。


「いつになく素直じゃねえか」

「ま、まさか!魔獣と中身が入れ替わったとか!?」


 ありもしないことを言い出すヒバナの頭部に、げんこつをするヴェルフ。痛む頭を抑えながら、なぜ自分だけと不満そうな顔をしている。

 ヴェルフは空気を切り替えるように咳払いをする。


「とにかく、この国とこのガキどもを救ってくれた礼だ。ありがたく受けっとってくれや」


 ヴェルフは近くにいたヒバナの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 エアリアは、やっぱりヴェルフさんは優しい人だと、思わず笑みがこぼれてしまった。

 すると、何かを思いつたエアリア。


「そうだ!せっかくこんなにいい剣をもらったんだから、剣に名前をつけよう!」

「お、いいなそれ!」


 一番に乗ってきたのは、さっきまで後ろで黙っていたエイドだった。

 しかし、ヒスイの顔が曇り、全力で止めに入る。


「やめときなよ。エイド兄ちゃんセンスない」

「失礼だなお前」


 エイドはヒスイに構うことなく、顎に手を当てて考える。


「何がいいかな……かっちょいいのがいいよな!《超ウルトラスーパーソード》とか!」

「《ミラクルスペシャルボンバーソード》とかもいいんじゃない?」


 エイドのセンスも中々に酷いが、エアリアのセンスも絶望的だった。


「お前ら本気で考えてるのか?」


 フラムは呆れた顔で二人に言った。

 ヴェルフは、何か考えがあるのか、おもむろに口を開いた。


「《フィオーレ》ってのはどうだ?」


 ヴェルフの案に、短く、それでいてかっこいい名前に納得したのかエイドとエアリアは目をキラキラさせていた。

 ヴェルフは、この名前にした理由を語る。


「この名前は、俺が初めて剣を譲った男の名前だ」


 エアリアはヴェルフの言葉を聞いて驚いていた。


「運命感じるな~。私のお父さんの旧姓はフィオーレっていうんだ。だから、私はヴェルフさんの案に賛成!」


 エアリアは元気よく手を上げて言う。

 それを見たエイドは笑ってい頷いた。


「決まり!」


 エアリアは剣を腰に巻いているベルトに取り付けると、満面の笑みで、


「ありがとう!ヴェルフさん!」


 と、お礼を言うと、みんなに見せびらかすように胸を張って自慢していた。その後ろ姿を見ていたヴェルフは、誰にも聞こえない声で呟いた。


「全く、昔と全く同じじゃねえか。なあ、ユリウス……」


 どこか遠くを見つめるように、エアリアを見るその目は、少し寂し気だった。

 かくして、エアリアは新たな旅の共となる《フィオーレ》を手に入れた。

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