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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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23.最強の男

 足元には、人の頭ほどの岩が大量に転がり、歩きずらい道が一直線に続いている。周りを見渡しても、草木は全く生えておらず、岩と砂だけが広がっている。

 乾いた風が吹くたびに、砂埃が視界を奪ってしまう。

 そんな険しい道を四人が歩いている。


「兄貴~、まだつかないっすか?」


 四人のうちの一人が、愚痴をこぼした。

 他の三人に比べ、首元がよれて、ダボダボの服を身に纏う、だらしない男だ。腰には、二本の鉈のような刃を下げている。    

 ぼさぼさの髪を目が隠れる程伸ばし、みすぼらしい見た目をした男だった。  

 彼の名はオセロット。金等級(ゴールドランカー)の冒険者だ。 


「その質問何回目よ?黙って歩きな」


 オセロットにいらだちを含んだように言ったのは、桃色の髪を腰のあたりまで伸ばした、どこか上品な雰囲気を出している女性だった。

 魔法なのか、頭上には透明な傘のようなものが、日差しをさえぎり、宙に浮いた長い杖の上に座ったまま、ふわふわと移動している。

 そんな彼女の口には、キャンディーのようなものを咥えている。これは、子供たちの間で密かに人気となっている、『びっくりキャンディー』というもので、彼女の好物だ。

『びっくりキャンディー』は、数万種類の味があると言われていて、食べてみるまで何味かわからない、そんなドキドキ感を味わえるというのが人気の秘訣だ。

  ちなみに、彼女が食べている味は『アクアマッシュルームの唐揚げ味』だ。

 それよりも、彼女にはひと目でわかる印象的な特徴がある。それは、鋭くとがった耳。そう、エルフ族だ。

 彼女の名前は、チェリー・ブロッサム。オセロットと違い彼女は冒険者ではない。

 オセロットは涼しい顔をしているチェリーに言う。


「うるせえ!お前も降りて歩けよ!」

「まあまあ。二人とも、少し落ち着いて」


 2人を宥める女性は、この辺りでは滅多に見ない、和服のようなものに身を包んでいた。そして、女性が背負うには、大きすぎる弓を背負っている。

 凛々しい顔立ちをして、後ろで黒い髪を束ねている彼女の名は、那須野(なすの) 真弓(まゆみ)。この大陸では指で数えるしかいないと言われる、極東の小さな島国、日本(ジパング)というところから来た日本人だ。

 ちなみに、彼女は冒険者で、等級はオセロットと同じ、金等級だ。

 そんな三人の先頭を、新聞を読みながら黙って歩く男。その男に、オセロットが助けを求める。


「兄貴も新聞なんか読んでないで、何とか言ってくださいよ~」


 オセロットが兄貴と呼ぶ彼は、この三人を率いるパーティのリーダ兼冒険者だ。

 背中には、細く、鋭い長槍を背負い、装飾が施された黒いコートを羽織っている。黒というよりは、やや青みがかった髪に、暗い紫色の瞳をしている。

 彼の名はライトニング・アギリス。冒険者のなかでも、指で数えられるほど人数が少ない白金等級(プラチナランク)だ。

 ライトニングはオセロットの声が聞こえていないのか、新聞をずっと眺めている。そんなに夢中になるほど気になる記事があったのかと、オセロットはのぞき込む。

 すると、驚きのあまり、新聞を奪い取り、記事の内容を声に出してしまう。


「ロドゴストに魔獣が群れで襲ってきた!?それを救ったのは……銅等級(ブロンズランク)の冒険者!?」


 記事の内容が気になったチェリーと真弓は、オセロットの傍に寄る。すると、チェリーが横から取り上げてしまう。


「なになに?冒険者の仲間の村人と鍛冶氏が力を合わせて、反逆者のジェラードを倒した……ってこれ本当なの?ジェラードって言ったら、あの氷の騎士さんよね?実力は金等級と同じって聞いたことあるけど」

「そんな男に銅等級の冒険者一人に、冒険者ではない村人と鍛冶氏が勝ったと。到底信じがたいが、内容は本当なのか?」


 新聞を読むチェリーと真弓は眉間に皺を浮かべながら新聞を見ている。


「でもよ、プロームルの新聞なのだろ?信憑性は高いんじゃねえか?」


 オセロットはそう言うと、笑みを浮かべながら続ける。


「そうなると、こいつらはチャックしとかなくちゃな。俺らの仕事よこどりする商売敵になるかもしれねえ」

「あんたっていっつも金の話ばっかだね」


 呆れた様に言うチェリーを無視して、オセロットは続けて聞いた。


「んで、そいつらの名前は何て言うんだ?」


 新聞を持っていたチェリーは新聞に目を落とし、名前を読み上げる。


「冒険者の名前は、エアリア・ユースト。鍛冶氏の名前は、フラム・マトリカリア。そして、冒険者の名前は――」

「エイド・フローリア」


 さっきまで黙っていたライトニングが、急にエイドの名前を発したことに、全員驚き視線を向ける。


「兄貴、知ってるんすか?」

「ああ。知ってるさ」


 ライトニングは小さく笑って答える。それを見た三人は、何故か口を大きく開けて固まっていた。


「見たかよ……」

「うん……」

「ライト殿が、笑った……?」


 三人が驚くのも無理はない。ライトニングはよっぽどのことがない限り、感情を表情に出すことがない。最後に笑ったのは一か月も前になるか、もしかしたらそれ以上前だったかもしれない。それほど、彼が笑うことは珍しいのだ。

 置いていかれた三人は慌ててライトニングの元へ駆け寄ると、


「ねえ、このエイドって子どんな子なの?」

「兄貴とはどういった関係なんすか?」

「そよエイド殿は強いのか?強いならぜひ手合わせ願いたいのだが!」


 目をキラキラとさせ、次々と飛んでくる質問にため息を漏らすライトニング。

 ライトニングに知り合いがいたことが、気になって仕方がない三人。

 三人は、ライトニングのことをあまり知らない。どういう人物かというのは知っているが、生い立ちや過去の事をあまり知らない。

 だから、ライトニングに知り合いがいるという、面白そうな話題に食いついたということだ。

 その後、質問攻めにあったライトニングはエイドの名前を出したことを少し後悔していた。

 と、その時だった。全員は何かを感じ取ったかのように、黙り込んで進行方向を見る。

 旋風(つむじかぜ)が目の前で吹き荒れた瞬間、地面が揺れる。同時に亀裂が走り、割れ目からライトニングの身長を遥かに超える岩が姿を表す。

 巨大な岩には手足があり、胸の真ん中には赤い宝石のようなものが埋め込まれている。


「ひゅ~、こりゃあまたでっかいゴーレムっすね」


 口笛を吹いて言うオセロット。彼が言う通り、目の前に現れたのは、硬質な岩で体が作られたゴーレムという魔獣だ。

 推奨討伐等級は金等級で核を破壊しない限り、周りの岩を吸収し、破損部分を再生する厄介な魔獣だ。

 ライトニングの周りにいた三人は武器を取り出す。


「さて、ちゃっちゃと終わらせようか」


 やる気満々のオセロットに続く三人。しかし、オセロットの肩にぽん、と手を置くライトニング。そして、槍を構えると一歩前に出る。


「お前らが出るまでもないよ」


 ライトニングは静かに言うと、槍がふわふわと手を離れていき、宙にとどまる。

 ゴーレムは、岩がこすれる音とともに、ゆっくりと拳を振り上げている。このまま振りおろせば、四人どころか、周囲数十メートルまで陥没してしまうだろう。

 しかし、ライトニングの後ろで待つ三人は、手を額に当て、「おー」と声を揃えて見上げている。

 見上げていると、高く上がった、巨大な岩の塊が振り下ろされる。

 刹那、ライトニングを中心に、まばゆい光が走る。すると、瞬きをしていた間に、真上の岩の拳は、甲高い音のと共に粉々に砕け散り、四方へと散る。

 拳のさらに上に、何やら細い棒のようなものが飛んでいる。それは、ライトニングが持っていた槍だった。

 あの一瞬で槍は岩を貫き、砕いたのだ。

 ライトニングは手をゆっくりと上げると、素早く振り下ろす。すると、宙にあった槍はバチバチと音を立て、蒼い電気を帯びて、ゴーレムの方を向いてピタリと止まる。

 刹那、空を切る音とともに、目にも止まらぬ速さで急降下する。

 槍がゴーレムを貫いた瞬間、爆音と共に地面を激しく揺らす。ゴーレムを覆い隠すほどの砂埃が舞い、周囲の地面に亀裂が走る。

 ライトニングの後ろにいたオセロットは目を閉じ、真正面から風を受け、チェリーは半透明な球体に身を包み、真弓は背中を向けて風を凌ぐ。

 風がやみ、砂埃が晴れると、ライトニングの目の前にいたゴーレムは跡形もなくなっていて、砕け散った岩が積み上がっているだけだった。

 地面に突き刺さった槍は、何らかの力で引き抜かれると、宙で回転しながら、ライトニングの手に収まる。

 槍を背中に戻すと、後ろを振り返る。


「よし、行こうか」


 何事もなかったかのように、ライトニングは言った。実際、これしきのこと、ライトニングにとっては朝飯前だった。これが白金等級の実力なのだ。

 後ろの三人は呆れてため息を漏らす。


「相変わらず、でたらめな強さだよね~」

「ホントっすよ。今のはオーバーキルっすよ」

「当然だ。それくらいやってくれなければ、私達のリーダーは務まらん」


 三人の言葉に照れ隠しなのか、黙り込んでしまうライトニング。すると、歩いてすぐライトニングが歩みを止める。

 三人も、ライトニングにあわせて足を止める。直後、目の前の地面が割れる。それも一つではなく、十箇所以上もの亀裂が出来上がっていく。そして、先ほどと同じ大きさのゴーレムが亀裂から現れる。

 目の前の景色が岩で覆い隠され、まるでひとつの動く要塞のようだ。


「うげっ!マジ~?」


 嫌そうな顔をするチェリーをよそに、オセロットと真弓はすでに武器を構えている。


「ごちゃごちゃ抜かしてねえで、杖から降りて手伝えよ」

「まあまあ、修行と思えばこれしきのこと、なんてことない」


 流石にこの数は疲れそうだと、ライトニングも再び槍を構える。

 そして、何かを感じ取ったのか、空を見上げる。

 その後、後ろにいた三人に振り返って言う。


「下がったほうがいい」


 三人は首をかしげて数歩さがる。その直後だった。目の前のゴーレムが砂埃とともに弾け飛んだ。四人は衝撃で砂埃が舞うと思い、顔の前で腕を交差させる。が、その必要はなかった。

 爆発が起きた箇所を中心に、砂が吸い込まれていき、竜巻のように上に伸びていくと、緩やかに風に乗って消えていく。


「やっと見つけたよ」


 竜巻の中心に立っていたのは、二十代後半の男だった。透き通る透明な水色の髪をしていて、髪と同じ水色の瞳をしている。

 しかし、右目だけは(あか)く、そのせいで少し違和感のようなものを感じる。

 そして、気になるのが、あれ程の爆発の中心にいたにも関わらず、武器を一切持っていないのだ。加えて、来ていた服にも、全く汚れが無い。

 自分が消し去ったゴーレムのことなど、全く気付いていないかのように話す男に、ライトニングは言う。


「もっと静かに登場してくださいよ」

「ごめんごめん……っとその前に――」


 男は後ろを振り向き、子供が手を銃の形にするように、指をゴーレムに向ける。

 すると、周囲の空気の流れが変わった。まるで、指先に風が吸い込まれていくように、周りの魔力が集中していく。

 数秒後には、指先に直径十センチほどの黒い球体が作り出されていた。

 男はゴーレムに狙いを定める。


「『黒玉(くろだま)』」


 男が言った突如、指先から黒い波動が前方に広がる。波動は、ゴーレムを含め、広範囲を包み込む。

 徐々に弱くなっていき、数秒後には消えてしまった。

 男は、指先を拳銃の煙を吹き消すように、ふっと息を吹きかける。


「相変わらず、ふざけた野郎っすね」


 オセロットがこぼした言葉に、チェリーは呆れたように答える。


「今更何よ。だってあの男は、()()()()なんだから」


 二人は、広範囲にわたり、地面ごと削り取られた光景を前に呆れていた。

 そう、彼こそが、世界最強と言われた男、アルフレッド・アダマス。冒険者の階級で最も高く、たったの二人しかいない《金剛石等級(ダイヤランク)》だ。

 その実力は、一人で国1つを潰せるほどだという。

 アルフレッドは四人の方に振り向くと笑顔で言った。


「はい、おしまい!」


 あれほどいたゴーレムが、あっという間に消し飛んだことに、ライトニング以外の三人の顔からは表情が消えていた。

 ライトニングはいきなり現れ、さらっと実力を見せつけられたことに、少し腹が立ったのか、少しだけ、眉間に皺が寄っているように見える。


「なにかようですか?急に仕事丸投げされたと思ったら急にいなくなるし」


 ライトニングは目の前でヘラヘラしているアルフレッドに強い口調で言う。

 アルフレッドはすぐさま目の前で手を合わせて謝る。


「それはごめん!こっちにも色々やることがあるんだよ」

「それは分かってますけど……で、なんで戻ってきたんですか?」

「そうそう、ライト達に調べてほしい事があってね」


 アルフレッドはポケットから紙を取り出すと、ライトニングに渡す。それは地図のようだった。


「これって、グリンティアの地図ですか?」


 グリンティアは大陸の北側に位置する国の名前だ。一年中気候が穏やかで、バカンスを楽しむ人達にとても人気のある国だ。


「ああ。つい最近、グリンティアの領地の小さな村が急に冬になったんだと」

「冬に?あそこに冬なんてないでしょ。そもそも、今の時期、どこも雪なんて振りませんよ」

「そうなんだよ。不思議だろ?それを調べてほしいんだよ」

「そんなの、俺らじゃなくて、研究者の方が適任でしょ」

「ちっちっち!そうはいかなんだよ」

「焦らさないでさっさと教えて下さい」


 ライトニングは手に持った槍の先をアルフレッドの顔面に向ける。


「わかったよ」


 アルフレッドは真顔になり、咳払いをする。


「その村で()()()()残滓(ざんし)が見つかった」


 その言葉を聞いた瞬間、四人の表情が一瞬で引き締まる。


「きっと()()()()の仕業だろう。今行けば、残滓をたどって何か見つかるかもしれない」


 アルフレッドは伝えたいことだけ伝えると、笑って続けた。


「んじゃ、そういうことだから!後のことはよろしく頼むね!」

「あ、ちょっと――」


 ライトニングの言葉を待たずに、アルフレッドは両手を合わせる。すると、少しの風を巻き上げながら、スっと風が穏やかになり、目の前から消え去ってしまった。

 アルフレッドの姿が消えた途端、ライトニングの後ろから大きなため息が聞こえてくる。


「また押し付けられたっすよ!いっぺん、ガツンと言ってやりましょうよ」


 オセロットがそう言うと、ライトニングはなだめるように言う。


「まあ、いつものことだ。それより、急ぐぞ。今ならまだ間に合うかもしれない」

「そうだね。滅多に見せないしっぽ見せたんだ。このチャンスは逃さない」


 やる気に満ちた目で言うチェリーに、他の三人は頷いた。

 こうして、四人はグリンティアに向かったのだった。

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