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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
24/75

22.休息

 その後、城の前で魔獣たちと戦っていた衛兵たちが、慌ただしい様子で王室に入ってくる。


「これは………!?」


 引き裂けた壁、大穴が開いた床、焼け焦げた絨毯。激しい戦闘が行われた痕跡を目の当たりにして驚愕していた。すると、エイド達に気が付いた衛兵たちは、武器を構えてエイド達を取り囲む。


「貴様ら!この城に侵入した族だな!王をどこにやった!」


 血走った眼で叫ぶ衛兵に、エアリアは驚きながらも答える。


「ちょっと待ってください!私たちは――」

「武器を(おろ)さんか!」


 エアリアが説明をしようとした瞬間、玉座の後ろから怒号が飛ぶ。衛兵たちはその姿を見て、本能的に武器を下し、そして膝を地面に着き身を低くする。


「ロドゴスト王!ご無事でしたか!」


 声の主は縛られていたロドゴスト王だった。エイド達の戦闘の最中、何とかして縄をほどいたのだろう。

 ロドゴスト王はエイド達を指して言う。


「このもの達は私を命がけで救ってくれた恩人ぞ!無礼な態度はこの私が許さん!」


 衛兵たちは「はっ!」と声をそろえて返事をする。エイド達はその勢いに驚いていた。

 そして、ロドゴスト王は続けて言う。


「この事件の主犯はジェラードによるものだ!今すぐそこの反逆者を捕らえろ!」


 倒れるジェラードに指をさしていう、ロドゴスト王。衛兵たちは倒れているジェラードに驚いていた。まさか、あれほど忠誠心があったジェラードが王の首を狙っていた主犯だったとは誰も思いもしなかったのだ。

 衛兵たちは驚きながらも、急いでジェラードの元に駆け寄り、頑丈な鎖で体を縛り上げ、後ろに手を回し手錠をはめる。その時にはすでに、ジェラードは意識を取り戻していたようだ。

 ロドゴスト王はジェラードを縛り上げる衛兵に言う。


「そいつを《冥府の檻(タルタロス)》へ送れ!二度と我の前に顔を出さんようにな!」


 衛兵は返事をすると、そのまま歩き始める。

 

 《冥府の檻(タルタロス)》それは、一度入ったものは二度と日の光を浴びることができないと言われている、厳重な牢獄だ。脱獄できたものは《冥府の檻(タルタロス)》設立後、未だ現れない。それほどに厳重な牢獄だ。

 すると、それをエイドはエアリアの肩を借りて、ジェラードを連れていく衛兵の前に立つ。


「ちょっと待ってくれ。そいつに聞きたいことがある」


 衛兵は王への判断を仰ぐ。王は一度だけ、ゆっくりと頷いた。それを確認したエイドはジェラードに聞く。


「単刀直入に聞く。何で自分が犯人だという痕跡を残した?」


 ジェラードは俯いたまま、目だけをエイドに向けて答えた。


「なんのことだかわからないな」


 その声はかすれていて、声を出すのがやっとというのが伝わってくる。しかし、エイドは聞かなければならないと、更に聞いた。


「なぜ本気で殺しに来なかった?お前の攻撃には殺意がなかった。あんたの実力があれば、俺が来る前にフラムを殺せたろ?」

「偶然さ。少し遊んでやろうと思い、遊んでいたら君が来た。それだけのことだよ」

「そうか……なら、これで最後だ――」


 エイドはジェラードの目を真直ぐに見て聞く。


()()()ってのは誰だ?」


 その質問に、ジェラードの眉がわずかに動く。エイドはそれを見逃さなかった。

 少しの間を開け、ジェラードは答える。


()()()()()()。それは、私の流儀に反する」


 そう答えるジェラードの顔は、どこか悲しそうな表情をしていた。

 その時、王がエイド達に言う。


「もうよかろう。早くそいつを連れていけ」


 衛兵は返事をして、ジェラードを連行していく。エイドはその背中を最後まで見送った。すると、エイドは力が抜け、その場に膝から崩れ落ちる。エアリアは何とか地面に倒れこむ前に止める。


「大丈夫!?」

「ああ。大丈夫だ……」


 これ以上倒れないようにと、エイドの体を支えるエアリア。そこへ、ゆっくりとロドゴスト王が歩みよってくると、膝を着き、頭を下げる。


「なんとお礼を言ってよいか……そなたたちには頭が上がらん」


 そんな王にエアリアは慌てて言う。


「そんな、国王ともあろう人が私達に頭なんか下げないでください」


 しかし、ロドゴスト王は顔を上げることはなく続ける。


「いや、我が国の問題に巻き込んでしまった挙句、国を救い、我が命まで救ってもらったのだ。国王として不甲斐ない」


 エイド、フラム、エアリアが国王の対応に戸惑っていると、国王は近くにいる衛兵に怒鳴るように言う。


「貴様らもいつまで呆けている!早くこの方たちを手当てしろ!」


 体を震わせて返事をする衛兵の何人かは、エイドのために急いで担架を取りに向かう。その時、ふと、国王と目があうエイド。すると、国王は驚いたように目を見開いた。


「お主、名前は?」


 いきなりどうしたのだろうと、疑問を浮かべながらもエイドは答える。


「エイド・フローリアだ」


 それを聞いた国王は、更に驚いていた。


「まさか……!覚えておらんか!?お主、十年前にこの国へ運ばれたであろう?」


 エイドは過去の記憶をなんとか絞り出す。そして、ようやく思い出した。


「ああ。毒で倒れた俺を仲間がこの国まで運んだとか。俺は寝てたんで記憶がなかったんすけど」


 そう。エイドは以前、この国を訪れていた。その時は、ゴブリンの毒針を食らい、意識を失っていてあまり記憶がないが、一緒に狩にきていた仲間にここまで運ばれたと、村の人も言っていた。そのことを思い出したのだ。何でも、国王が直々にエイドの見舞いに来て、更にはこの国で受けれる最高医療を施してくれたとか。


「やはりそうか!やはり、あの時感じたものは神のお告げであったか!」

 

 話の経緯が全く分からないフラムとエアリアは目を合わせて首を傾げていた。

 気持ちが高まった国王は、我に戻ったのか、ゴホン!と咳ばらいをして言う。


「すまない。とにかく、今はゆっくり休んでくれ。もちろん、その間この城は自由に使ってくれて構わない。それなりの待遇は用意しよう」


 エアリアは慌てたように手を横に振って言う。


「そこまでお世話になるわけには――」

「いや、せめてそのくらいはさせてくれ。でなければ、国王として、一人の人間としての立場がないのでな。もちろん、何かあれば言ってくれ。必要なものは用意しよう」


 すると、国王は背を向け王室の扉の方へ向かう。


「無礼であることは承知している。しかし、私は国王だ。国民の様子を見に行かねばならぬ。礼は改めて必ずする」


 そう言い残して王室を後にする。その後、すぐに衛兵たちが担架を持ってきてエイド達を医療室へと運んだ。そこで、エイドの記憶は途切れた。




 嵐が過ぎ去り、夜が明ける。その頃にはエイドは目を覚まし、体に包帯を巻き、ベッドに座っていた。


「また肋骨だよ。これ呼吸すると痛いから嫌なんだよ」

「今回は肺に刺さってないだけましじゃない?」

 

 左腕を包帯で巻き、首から吊るした包帯で固定しているエアリアが隣のベッドから冗談交じりに言う。

 診療室に運ばれた後、手当を受けた際、エイドは肋骨の一本が折れ、二本にひびが入っていた。エアリアは左腕を骨折。二人とも一か月は安静との診断を受けていた。

 そこへ、食事を台車に乗せ運んできたフラムが入ってきた。


「なんだ、思ったより元気そうじゃねえか」


 フラムは特に重症はなかったものの、切り傷が多く、エイドと同じように体中に包帯を巻いていた。医者によると、刃が鋭かったことが幸いし、魔法での治癒で傷跡が残らないように治せるとのことだった。

 フラムはエアリアとエイドの間に台車を置くと、近くにあった椅子に座った。


「で、街の方はどうなってるんだ?」


 エイドは大きな肉を頬張りながらフラムに聞いた。


「そりゃあもうめちゃくちゃだぜ。家は壊れてるわ、燃えてるわで大惨事だ。まあ、幸いなことに、魔法を使える冒険者が何人かいて、思いの他早く復旧が進んでる。この調子なら一か月も経たないうちに元通りになるっだろうな」

「あれだけ魔獣が襲ってきたんだもん。逆に死者が出てないのが奇跡だよ」


 エアリアはパンを頬張りながら笑っていった。

 衛兵から聞いた話では、街の人達を助けた時、全員の安否を確認でき、ケガ人は多かったが、死人は一人もいなかったとのことだ。さらに、昨日攫われた子供達も、城の地下にある牢獄にて発見されたとのことだった。


「ああ。ほんと、上手くいきすぎて怖いくらいだ」


 エイドは頬張っていた肉をすべて食べ終えると、何かを考えるように俯いていた。

 衛兵が言っていた話では、ジェラードはこの国を誰よりも愛し、国王への忠誠を誓っていた。仕事をサボることもなく、国王の依頼とあれば最後までやり遂げる。国へ反逆しようとすることなど考えられないほどにこの国を愛していたそうだ。そんな男がなぜ国へこんなことをしたのか。そして、ジェラードが言っていた()()()とは、一体誰のことなのか。そして、ジェラードはあのとき、なぜ悲しそうな顔をしていたのか。

 エイドが考えていたその時、誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。


「はーい。開いてますよ」


 エアリアが返事をすると、扉がゆっくりと開く。そこには、帽子を深くかぶり、肩から斜めに鞄を下げ、手にはカメラを持っている、無精ひげの男だった。


「いや~、どうも。私、記者をやっておりまして、あなた方の噂を聞きつけやってまいりました」


 どうやら、エイド達の活躍は既に街中に広まっているらしい。


「そこで、あなたたちを記事にさせていただきたいと思いまして……あ、失礼しました。私こういうものです」


 フラムが男から名刺を受け取る。それを見て目を見開き、大きな口を開け、呼吸が止まっていた。鮮やかな名刺にはこう書かれていた。


『新聞会社:プロームル』


「私、プロームルの記者をやっております、フギンと申します」

「なっ!プロームルの記者!?」


 ベッドに横になっていたエアリアが勢い良く立ち上がる。それにエイドは体を大きく震わせて驚く。


「いったい、なんだってんだよ!」

「知らないの!?」


 エアリアはエイドの方を向くと、いつもより大きな声量で説明する。


「勇者が産まれる前から、この大陸中に新聞を届けている大企業だよ!この新聞には、かなりの悪党か、大陸中に衝撃を与えるような凄いことをした人だけ!大陸獣の人がこの新聞に載ることを一度は夢見る、すごい新聞なんだよ!」

「つ、つまり……?」

「簡単に言えば、この新聞に載れば、有名人ってことだな」


 エアリアの代わって答えるフラム。

 月に数回しか新聞が届かない田舎に住んでいたエイドには、詳しいことはわからないが、エアリアとフラムの慌てぶりから、相当凄いことなのだろう。

 フギンはコホンと咳払いをして話し始める。


「それで、あなた方に少しお話を伺いたいのですが、よろしいですか?」


 エアリアはベッドを飛び出すと、目にも留まらぬ速さでフギンの前に行くと、手を握ってぶんぶんと振り回す。


「もちろん!何でも聞いて下さい!ああ~私も有名人か~」


 目をキラキラと輝かせて遠い空を見つめるエアリアに、記者のフギンは苦笑していた。


「それと、一枚写真を撮らせていただきたいのですが」

「是非是非!」


 エアリアは瞬く間にエイドの横に移動すると、肩に手を回し、勢いよく自分の元に引き寄せる。その衝撃が胸に響き、痛みが走る。


「いたたたたた!何すんだ!こっちは怪我人だぞ!」

「うるさいな。そんなのはどうでもいいのよ!今はこっちのほうが大事!ほら、フラムももっとこっちによって!」

「お、おう」


 珍しく緊張しているフラムは、ギギギギと錆びた機械が動いたような音を立てながら、エイドの横に立つ。


「それじゃあ、撮りますよ~」

「かわいくお願いしま~す!」


 エアリアは満面の笑みでフギンに言う。

 エイドは、何がなんだかよくわからないまま、何か凄いことになったなと、思いながらため息をつく。同時に、短い機械音が部屋に響き、一瞬の光が三人に浴びせられる。

 エアリアは満面の笑みを浮かべ、そのエアリアに首を絞められ、呆れた顔をするエイド。その横で、引きつった笑顔を浮かべるフラム。

 お世辞にも良いとは言えない写真は、大陸中にばらまかれるのだった。

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