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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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19.笑っちまえばいいのさ

 エイド達が戦っているころ、エアリアもまた、魔獣との死闘を繰り広げていた。

 ゴラオーリアはエアリア目掛けて何度も殴りかかる。そのたびに、エアリアは攻撃を受け流し、直撃を間逃れる。拳は地面に突き刺さり、足場を破壊していく。

 エアリアは一旦距離を取り、呼吸を整える。

 一瞬のミスが命取りとなるこの状況は、かなりの体力を消耗する。攻撃を受け流す時、攻撃の威力、攻撃の速さ、攻撃の角度を見極めなければならない。それを続けるエアリアの体には、徐々に疲労が蓄積されていく。

 大きくいきを吸い、酸素を体中に巡らせる。そして、剣を構える手に力を込める。しかし、エアリアは現状に頭を抱えていた。

 攻撃を受け流す事自体にはなれてきた。しかし、受け流すのが精一杯で攻ることができない。それを考える暇もないほど、ゴラオーリアもまた、攻撃の手を緩めない。

 エアリアが苦戦するのは当然だ。ゴラオーリアの討伐推奨等級(ランク)は、金等級(ゴールドランク)。つまり、エアリアの階級より格上の魔獣なのだ。

 この状況をどう打破しようかと、ゴラオーリアを見て考えている時、ゴラオーリアの胸の辺りで何か輝いたように見えた。目を凝らして見ると、やはり何か宝石のようなものが輝いている。エアリアはそれが何かに気がついた。


「やっぱり、《支配(テイム)》の魔法水晶(クリスタル)で操られてるんだ」


 と、魔法水晶に気を取られていると、ゴラオーリアが一気に距離を詰めてくる。一瞬、反応が遅れるも、冷静に攻撃を受け流していく。攻撃を交わしながらも、どう攻めれば良いかを考える。その時、ふと過去の記憶が蘇る。それは、師であるマリーとの会話だった。


『このパリィは攻撃を凌ぐという意味ではもってこいの技だ。相手の力を利用する分、自分の体力の消費も少ないからね。でも、この技の本質はそこじゃない。この技の本質はカウンターだ。そのことを忘れるな』


 会話を思い出したエアリアはあることに気がついた。自分は今まで攻撃をいなすことしか考えてこなかった。


(もし、このパリィを上手く利用して攻撃に転じることができたら……)


 しかし、攻撃をいなすことしかやってこなかったエアリアは、どうすればカウンターにつなげられるかわからなかった。これは、エアリアの特技である《物真似(コピー)》の弱点とも言えるだろう。《物真似》で再現するというのは、似たような動きができるだけで、真似した者の動きを超えた動きはできない。そして、《物真似》したこと以外の動きはできないのだ。つまり、今のエアリアは攻撃を受け流すことしかできないのだ。

 エアリアは攻撃をひたすらにかわす。徐々に蓄積された疲労が見え始めたのか、呼吸が荒くなっている。


(迷ってる暇はない!一か八か、やるしかない!)


 エアリアは大きくいきを吸い、呼吸を整えると、鋭い眼光でゴラオーリアを睨みつけ、剣を構える。次の瞬間、ゴラオーリアの拳が、エアリア目掛けて飛んでくる。エアリアは拳の横に剣を当てて、横にいなす。ここまでは、さっきまでと変わりはない。しかし、今回は少し違う。エアリアは勢いを利用してそのまま回転すると、遠心力で無防備になった腕を斬りつける。しかし、分厚く硬い剛毛が、皮膚まで用達するのを防ぎ、傷を与える事ができなかった。


(硬すぎでしょ……!)


 苦笑するエアリアに、ゴラオーリアが剣を受けた逆の手を広げて、エアリア目掛けて横に薙ぎ払う。地面を削りながら迫ってくる手に、エアリアは慌てて回避しようとする。しかし、なれないことをしたせいか、足がもつれてバランスを崩してしまう。


「しまった……!」


 攻撃を食らうと確信したエアリアは咄嗟に腕を前で交差させ、体を小さくし、身を固める。直後、腕を伝って、全身に激しい痛みが走る。骨がミシミシと音を立てる。顔をしかめるエアリアは、そのままいともたやすく、水路をはさんで反対側の壁に吹き飛ばされてしまった。


「がはっ……!?」


 背中を強く打ち、鈍い痛みが背中に広がる。肺の空気が無理やりに吐き出され、そのまま地面に倒れ込む。呼吸を整えようと空気を取り込もうとするが、体が言うことを聞かず、ヒュウと隙間風のような小さな音がなるだけで、うまく呼吸ができない。その時、


「グォォオオオォォオォオオォ!!」


 雄たけびを上げ、身をかがめているゴラオーリアが視界に入った。

 エアリアは、強引に空気を吸い、肺に送り込む。痛みが走る筋肉を無理やりに動かし立ち上がると、地面を蹴って横に飛ぶ。直後、エアリアの背後の壁に、ゴラオーリアの巨体が突き刺さる。地面が震え、水しぶきが上がる。

 エアリアは地面を転がりながら、体勢を立て直すして、立ち上がる。その時、カチカチと震える剣を見て、自分が震えていることに気が付いたエアリア。

 たった一撃で、これほどのダメージを受けた。宙に飛んで衝撃をいなしていなければ、この程度では済まなかっただろう。体中を駆け巡る痛みが、それを物語っていた。自分より圧倒的な力が、痛みがエアリアを恐怖が包み込んでいた。

 足は震え、歯ががたがたとなる。

 ゴラオーリアが壁から体を引き抜くと、エアリアを睨みつける。刹那、まるで石になったかのように体が動かなくなる。


(なんで、体が……!?動いて、動いて!)


 心ではわかっている。今動かなければ、ヒバナを助けるために動かなければ。しかし、体が痛みを、恐怖を知ってしまった。いくら動かそうとも、本能的に恐怖を感じてしまったて動けない。

 ゴラオーリアが動けないエアリアに迫る。歩くたびに、足に振動が伝わってくる。そのたびに、ひしひしと迫りくる()

 

(あ……私死ぬんだ……)


 死を覚悟したその時、走馬灯のように過去の記憶が駆け巡る。

 それは、父との最期の会話だった。


『お父さんは、魔獣と戦うのは怖くないの?』

『そりゃあ、もう怖いよ。自分より強い魔獣が相手の時は特に怖いよ』

『じゃあ、何で戦うの?』

『それはね、魔獣よりも怖いものがあるからさ』

『怖いもの?』

『ああ。大事なものを失うことさ。エアリアや母さん、そして仲間。それらを失うことが、お父さんにとって一番怖いんだ。そう思うと、体のそこから力が湧いてくるような気がするんだ』

『怖いと力が出るの?』

『う~ん、そういう分けじゃないけどね。大切なものを守るため、絶対に勝つ。そう思うと、お父さんは誰にも負けない力が出てくるんだ!』

『それでも怖いってなったらどうするの?』

『その時は――』


 エアリアの問いに答えたのは、父のはずだった。しかし、父の面影にエイドの姿が重なる。そういえば、エイドにも、村を出る前に同じ質問をしたことがあったと思い出す。


『笑っちまえばいいのさ。そんな恐怖なんてクソくらえって!』


 過去の記憶から現実に戻ったエアリア。気が付くと、体の震えは止まっていた。

 すると、ゴラオーリアは既に手が届く距離まで迫っていた。

 それを見たエアリアは静かに笑った。


「こんな時に出てくるとはね……」


 エアリアは剣を力強く構える。そして、大きく息を吸う。その眼は、先程と違い、相手を見据え、覚悟が決まった勇ましい目をしていた。


(ありがとう。エイド……お父さん……)


 エアリアは心の中で呟くと、地面を蹴って目の前にいるゴラオーリアに向かって行く。今まで受け身だったエアリアの攻撃姿勢に、ゴラオーリアも驚いたが、咄嗟にエアリアに狙いを定めて殴る。

 エアリアはさっきと同じように剣で受け流すと、相手の勢いを利用して身をひるがえし、腕を斬りつける。やはり、傷は浅くしか付けられない。そこへ、ゴラオーリアの左腕がエアリアを捕まえようと迫りくる。


(さっきは攻撃に専念しすぎた。それじゃだめだ。攻撃をいなすことと攻撃を繰り返す。それができて一つの技なんだ)


 エアリアはマリーが使う《パリィ》の本質に気が付いた。だからこそ、強気に攻めることができたのだ。

 エアリアは迫りくる左手を剣で下に逸らすと、その勢いを利用し、前転しながら宙に飛び、左腕に乗ると、そのまま胴体に向かって走り出す。

 ゴラオーリアはさっきまでとはまるで別人のような身のこなしをするエアリアに驚き、腕に乗るエアリアを振り払い、後ろへ飛ぶ。そして、すぐさま前に飛び、宙で無防備になったエアリアに襲いかかる。

 エアリアは冷静に腕の動きを読み、攻撃をさばいていく。そして、地面に着地すると、間髪入れずに再び向かって行く。

 ゴラオーリアは何度攻撃しても当たらないことに対する怒りと、自分よりも小さいはずの生物から発せられる、大きな威圧による恐怖から、徐々に攻撃が大振りになっていく。

 それでも、エアリアは攻撃を右へ左へといなし、距離を詰めていく。迫りくるエアリアに、怯えるように腕を振って、払おうとするが、エアリアは攻撃をいなしながら、再び腕に上る。そして、足に力を込め、胴体目掛けて一直線に飛ぶ。


(今の私じゃ、核まで攻撃が届かない。だった、狙いは一つ!)


 剣を突き立てるように構えると、一点に狙いを定める。それは、ゴラオーリアを操っている《支配》の魔法水晶だ。


「いっけぇええ!」


 叫び声と共に、切っ先が魔法水晶へと届く。ギリギリと音を立てながら、徐々にひび割れていく。そして、ヒビは全体へと走り、ガラスが割れるような音と共にはじけ飛んだ。

 すると、ゴラオーリアは膝から崩れ落ち、まるで電池が切れた機械のように動きを止める。

 エアリアはゴラオーリアの胸を蹴り、後ろへ飛ぶと、剣を構えて呼吸を整える。


「はぁ……はぁ……止まった?」


 動かなくなったゴラオーリアを警戒しながらも、体力を少しでも回復させようと呼吸を整える。と、その時だった。ゴラオーリアの指がわずかに動く。そして、エアリアを睨みつけると、ゆっくりと歩いて向かって来る。


「そろそろこっちも限界なんだけどな……」


 エアリアは体に蓄積する疲労とダメージを感じていた。無理に動かしたせいで、体が異常に重く、剣を持つのがやっとという状態だった。それでも、エアリアは剣を構えたまま、相手の様子を伺う。

 徐々に迫ってくるゴラオーリアに、エアリアは唾を飲む。そして、目の前に立ったゴラオーリアは両腕を高く振り上げる。


(来る――!)


 エアリアが攻撃に備え身構えた瞬間、ズドーン!と地面が大きく揺れる。その様子に、エアリアは驚き目を丸くした。何故なら、ゴラオーリアは振り上げたこぶしを、自分の足元に叩きつけたのだ。

 そして、まるで人間が謝っているように、膝をつき、頭を下げている。

 思いもよらない行動に、エアリアは口を開け、あっけにとられている。


「ええっと、敵意はないんだよね……?」


 エアリアは腰にかけている鞘に剣をしまうと、怯えながら、ゆっくりとゴラオーリアに近づく。すると、ゆっくりと手を伸ばしてゴラオーリアの頭を撫でる。そして、触れて分かった。ゴラオーリアからはさっきまでの敵意を感じ取れない。それよりも、感謝されているような、そんな感じがした。


「操られて苦しかったよね……。ごめんね、いっぱい切っちゃって……」


 エアリアは微笑みながら、ゴラオーリアに語り掛けるように言った。すると、ゴラオーリアがいきなりエアリアの体を掴むと、軽々と持ち上げる。


「え!?ちょっと、何するの!?」


 いくら敵意がないとはいえ、相手は魔獣。完全に油断したと思ったエアリアは何とか手から逃れようと踏ん張るが、力も出ず、抜け出すことができない。


「離して!私はエイド達の所に行かないと――」


 エアリアが暴れていると、いつの間にかゴラオーリアの頭に乗せられていた。エアリアはゴラオーリアが何をしたいのかをなんとなく感じ取る。


「もしかして、連れてってくれるの?」


 エアリアの問いかけに、ゴラオーリアは小さく頷いた。魔獣とここまで意思疎通が出来たのは初めてだったエアリアは終始驚いていた。恐らく《支配》の魔法による一時的なものだろうと、エアリアは思った。


「とにかく、ここから出たいの!力を貸して!」


 エアリアがお願いすると、ゴラオーリアは鼻から勢いよく息を吐くと、足に力を込める。その時、エアリアは嫌な予感がした。


「まさか、そんなことしないよね……?」


 しかし、エアリアの嫌な予感は的中してしまう。

 ゴラオーリアは足に込めた力を一気に開放して、大きく跳躍する。しかし、その頭上には天井がある。ゴラオーリアは止まるそぶりも見せずそのまま突進していく。


「いやああああああああああ!」


 ゴラオーリアは、涙目で叫ぶエアリアを手で守るようにして、そのまま天井をぶち破る。視界を覆われたエアリアには、ゴゴゴゴゴ!と、土や岩を砕く音と振動だけが伝わってくる。

 しばらくして、大きな音が聞こえたとおもったら、ゴラオーリアは手をどけて辺りを見回しているようだった。

 エアリアも周囲を見ると、薄暗く、埃が被った木箱がたくさん置いてあった。そこはどこか地下室のような場所だった。どうやら、用水路からは抜け出したようだ。


「とりあえず、用水路からは抜けたみたいね。この調子でお願いね」


 エアリアはゴラオーリアを撫でると、鼻息を荒げて頷くゴラオーリア。そんなゴラオーリアにエアリアは改めて言う。


「次はもっと慎重に!」


 聞いているのかいないのか、ゴラオーリアは目の前の壁に向かって走り出し、壁をぶち抜いていく。

 エアリアは、必死に頭にしがみつき、エイドの元へ向かうのだった――

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