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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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17.ドゥーラ VS エイド

 エイドとドゥーラは睨み合っている。

 相手の魔法がわかったとはいえ、その情報が本当かもわからないし、違う能力もあるかもしれない。しかし、目の前の相手ばかりに構ってはいられない。本当の目的は、ジェラードを止めることだ。

 エイドは剣を構えてドゥーラに向かって突進する。しかし、ドゥーラは余裕の笑みを浮かべている。すると、体の前で大きく腕を回し始める。手の先を追うように、淡い光が何もない宙に描かれていく。輪が描かれると、突如として壁が現れる。勢いを殺すことができないエイドは、そのまま輪に吸い込まれるように入っていき、壁に激突する。


「いでぇ!!」


 思わず声を漏らすエイドは、妙な感覚を覚える。ぶつかったというより、輪をくぐった瞬間、壁に引っ張られたような感じがしたのだ。

 壁を押して立ち上がると、壁だと思っていたものは、さっきまでたっていた地面だった。


「どうなってんだ?」

「ふっふっふ。我が《遮るものなき(トゥール・ニューク)(フープ)》を攻略するのは不可能だ!」


 ドゥーラは、再び宙に輪を描く。しかし、今度は輪をエイドに飛ばすように、両手を突き出す。

 何かが来る。エイドは剣を構え攻撃に備えた瞬間、体が一瞬にして軽くなる。まるで、いきなり宙に投げ出されたような浮遊感を覚えたエイドは、目だけで足元を見ると、さっきまでなかった大きな穴が開いていた。


(落ちてる――!?)


 エイドは咄嗟に輪の端を掴もうと手を伸ばすが、すでに届かないところまで落ちていた。と、思った瞬間、エイドは壁から飛び出すように、地面と平行になるように放り出される。無防備のまま、背中から地面に叩きつけられるように落ちる。


「いってぇ……!お前、さては輪形状の空間に閉じ込めるってのは嘘だな!」


 訳が分からない魔法に苛立ちを隠せないエイドはドゥーラに怒鳴る。


「半分正解で、半分違うな」


 ドゥーラはあざ笑うように言うと、再び宙に輪を描く。エイドは警戒して咄嗟に後ろに飛ぶと、背中に何かが当たると、それに吸い寄せられるような感覚がする。直後、目の前の空間にあった輪形の光が収縮して、消えた時には、天井を(あお)いでいた。エイドは後ろに飛んでかわしたはずだったが、地面に転がっていたのだ。


「ふっふっふっふ。滑稽だな」


 顔を手で覆いながら笑っているドゥーラ。エイドはゆっくりと起き上がると、剣を構えて言う。


「タネはわかった。もうこの魔法は効かねえ」


 自信に満ち溢れているエイドの顔を見たドゥーラは、次第に表情が真剣になっていく。


「わかったところで、どうしようというのだ。私がいくら、非戦闘員とはいえ、錆びた剣しか持たぬ、お前のようなごろつき相手に(おく)れをとる私ではない」


 ドゥーラは輪を描くと、エイドに向かって飛ばす。すると、エイドは軽く飛び、地面と平行になるように宙に舞うと、回転しながら剣を振る。足元に現れた光の輪を切り裂くと、向こうに見えていた景色がぼやけ、元の地面に戻っていく。


「馬鹿な!?」


 強制的に魔法が解除されたことに驚くドゥーラ。


「お前の魔法、本当は輪と輪をつなげるんだろ?」


 そう、ドゥーラの魔法は作った輪と輪をつなげる魔法だったのだ。正確には、入り口となる輪をつくりだし、その輪をまたぐと、出口として作った輪から出てくるというものだ。エイドが、いつまでも続く道に閉じ込められたと思っていたのは、角の手前で“入り口の輪”を作られ、一番手前側に“出口の輪”を作られていた。だから閉じ込められたと錯覚していたのだ。

 エイドはドゥーラが驚き、動きが止まった(すき)を見逃さない。透かさず体勢を立て直して地面に着地すると、一蹴りでドゥーラまでの距離を詰める。

 ドゥーラは慌てて宙に輪を描く。目の前に小さな光の輪が作り出されると、徐々に大きくなっていく。しかし、エイドは構わず剣を振るう。


「もらった!」


 エイドは輪ごとドゥーラ目掛けて剣を振るう。斬られた輪は一瞬で消え去ると、そのままドゥーラを切り裂く――はずだった。剣は空を切る音を上げるだけで、何も斬ってはいなかった。


「消えた?」


 エイドは姿を消したドゥーラを探ろうと気配を探る。すると、近くの部屋からものが崩れるような物音が聞こえる。


「自分の足元に輪をつくって逃げたのか」


 物音がした扉の前に立ち、勢いよく扉を開ける。しかし、そこにドゥーラの姿はなかった。


「そう言えば、あいつのもう一つの魔法は、この城中の扉を自由に行き来できるって言ってたな」


 エイドは部屋を出ると、周りを見る。この通路だけでも、扉は六つある。反対側の通路にも同じ数あるとして、一つ一つ確認していてはいつまでたっても追いつけない。


「さて、どうしたもんか……」


 エイドはいい策がないかと、目の前にあった扉を開ける。しかし、物置部屋には誰かいる気配何てなかった。そのまま部屋を出て扉を閉める。と、見せかけて、すぐさま扉を開けるが、誰もいない。

 魔法の発動条件がわからない上に、さっきのように、魔法の効果がフェイクかもしれない。

 すると、エイドはあることを思いつく。


「いいこと思いついた」


 不気味に笑うエイドは、剣を構える。その様子を、ドゥーラが《遮るものなき輪》で、一階の別の部屋から様子を伺っている。

 ドゥーラの《遮るものなき輪》は


「ふん、絶望しておかしくなったか」


 ドゥーラが勝ち誇ったように笑った、次の瞬間、ドゥーラの部屋全体が大きく揺れる。その揺れは、どうやら上の方で起きているようだ。


「魔獣でも入ったか?他の衛兵は何をしている」


 ドゥーラがエイドからわずかに目を離した瞬間、再び大きな揺れが起きる。今度は上からではなく、同じ階からだった。

 ドゥーラは慌てて輪を通してエイドを確認する。


「なんだ!?」


 輪の向こうでは、エイドが近くにあった扉を、周りの壁ごと破壊し、大きな穴を開けていた。

 エイドが思いついた案とは、この城にある扉をすべて破壊するというものだった。扉がなくなってしまえば、発動条件など関係なく、魔法の発動を防げると考えたのだ。

 エイドは次の扉の前に移動すると、勢いよく剣を振り、扉を破壊して大きな穴を開ける。すると、何もない廊下で大きな声で言う。


「とんでもおっさん!見てんだろ!この城の扉壊されたくなかったら、早めに出てきた方がいいぞ!」


 言い終えると、急いで次の扉へと移る。

 ドゥーラはこれ以上破壊されては、自分たちの責任となってしまう、そう思い慌てて小さな輪を作り出し、エイドに言う。


「ちょ、ちょっと待て!早まるな!」


 どこからか聞こえるドゥーラの声に、エイドは一度動きを止める。


「やなこった!俺をとめたきゃ、てめえで止めな!」


 エイドはどこからか聞こえてる声にこたえると、再び扉を破壊するために次の通路に向かう。

 ドゥーラは思考を巡らせる。このままでは、あのごろつきに城を破壊されかねない。そうなっては、各国からの信頼も下がるうえに、その責任を取らされるかもしれない。かといって、自分は非戦闘員。戦闘経験なんてものは最低限のものしかない。あの剣を振り回すごろつきに勝てるかどうかもわからない――


「否!ここでやらぬは男ではない!」


 ドゥーラは今までの考えを吹き飛ばすように叫ぶと、大きな輪を作りだす。そして、エイドの背後に回り込むと、拳を固く握り、エイドの後頭部に殴りかかる。


(一撃で意識を絶てば問題ない!)


 しかし、当たる直前で気が付いたエイドは、首を動かしかわすと、裏拳でドゥーラの顔面に一発入れる。骨が軋み、視界がぐるぐると回る。ふらつく体をなんとか足で支えて倒れることを防ぐ。鼻の奥から熱を持ったどろっとした液体が流れてくるのがわかる。

 ドゥーラは痛みというものが、これほど辛いものだということを、数年ぶりに思いだした。


「お前は、ここで止めなければならない」


 鼻を抑えながら言うドゥーラに、エイドは言う。


「おじさん、かっこいいじゃん。見直したよ」


 エイドは剣を構えると、真直ぐ相手を見据える。その威圧感は、先程とは大きく変わり、ドゥーラの肌に突き刺さるようだった。

 久しぶりに味わった実戦の緊張感に、押しつぶされそうだった。


「こっちも時間がねえんだ。速攻で終わらせるぞ」


 身を低く構えると、ドゥーラの近くまで一気に加速する。ドゥーラは目の前に輪を作りだし、エイドの攻撃を防ごうとする。しかし、エイドの剣は、輪をいともたやすく切り裂く。すると、目の前にドゥーラの姿はない。


「同じ手をそう何度も食らうかよ!」


 エイドは背後に気配を感じると、片足で回るようにして剣を水平に振る。背後にはドゥーラによって作られた輪があった。輪は簡単に切り裂かれると、そのまま空に消えていく。しかし、ドゥーラの姿はまたしてもなかった。

 エイドは驚き、目を見開いたその時、足場に輪が徐々に作られていく。空間がつながる前に、エイドは軽く飛ぶと、地面にある輪を切り裂く。――刹那、突如として真横に輪が現れる。輪の向こうには、なん十体もの鎧が見える。鉄の塊として襲い来る鎧は、物凄い速度で迫ってくる。


「魔法は使い手によって強弱が決まるものだ!」


 ドゥーラは、そう言いながらエイドのすぐそばに現れると、エイドの足元に輪を作る。それは、今までの輪に比べれば小さな輪だった。輪はそれぞれ、エイドの両足に創られると、隙間なくはまってしまう。

 ドゥーラは輪を上下に設置することで、鎧を何度も落とし、最大限まで加速させ、その速度を維持したままエイドにぶつけたのだ。

 完全に不意を突かれたエイドは一瞬動きが止まってしまう。すぐさま、思考を巡らせ、最適な動きを導きだす。

 はまってしまった足場を地面事斬り刻み、何とか動けるようになったエイドは、すかさず後ろに飛ぶ。しかし、鎧の方が断然速度が速い。

 エイドは鎧に向かって、剣を横に薙ぐ。鎧の塊は、わずかではあるが、四方へ分散される。これ以上剣を振れないと分かっていたエイドは、体の前で腕を交差させ、体を小さく丸めて身を固める。鎧の塊がエイドに浴びせれる。ごつごつとした塊が当たるたび、鈍い痛み走る。

 エイドは勢いそのままに、壁を貫通して、そのままどこかの一室へと吹き飛ばされてしまった。

 砂埃が舞い、静まり返った部屋に、ゆっくりと踏み入るドゥーラ。


「終わったか……」


 ため息交じりに言葉を漏らすドゥーラ。そして、上の方で続いている揺れの正体を確かめるために、部屋を出ようとしたその時だった。

 鎧の山の一部が一気にはじけ飛んだ。


「いってぇ……まじでやばかった……」


 鎧の中から、頭をおさえながら起き上がるエイド。それを見たドゥーラは驚きを隠せなかった。


「馬鹿な!なぜ立っていられる!?」

「ちっとばっか頑丈なもんでな」


 エイドは服の埃を払うと、たったの一振りで周りの鎧を薙ぎ払う。完全に油断していたドゥーラは鎧の残骸によってエイドを見失ってしまった。

 必死に目で部屋中を探す。その時、宙に舞う残骸の隙間から、錆びた剣が見える。


「そこか!」


 ドゥーラは自分に飛んでくる残骸を、輪を作りだし、剣がある場所へと一気に落とす。

 今度こそ、相手を行動不能にできた。そう確信したドゥーラだった。しかし、エイドはドゥーラの裏をかく。

 残骸に紛れ、背後に回っていたエイドは見計らっていたかのように飛び出す。

 ドゥーラは気が付いたが、すでに魔法を行使していて防御に転じることができない。

 エイドはもう防備になっているドゥーラの後頭部目掛けて飛び蹴りを決める。衝撃で意識が飛びそうになったドゥーラは何とかこらえ、踏ん張り、後ろを振り向き、防御の姿勢をとる。しかし、非戦闘員であるドゥーラに戦闘経験があるエイドが負けるはずがない。

 エイドは腕の隙間を縫うように、みぞおちに拳を突き刺す。

 内部に広がっていく痛みに耐えられなくなり、そのまま膝から崩れ落ちる。小刻みに震えながら、咳き込むドゥーラにエイドは言う。


「俺の勝ちだな」


 エイドはそう言うと、聖剣を取りドゥーラの傍にしゃがみ込む。


「殴っておいて申し訳ないんだけど、お前の魔法で上まで連れてってくれねえかな?」


 痛みに悶えながら、ドゥーラは答える。


「貴様なんぞに……手は……貸さん……」

「そんなこと言っていいの?この城の壊れよう。責任を取るってなったら、あんたなんじゃねえの?」


 小刻みに震えるドゥーラの動きが止まった。それを見てエイドは確信する。こいつはちょろい。


「だったらさ、俺にやられたふりして、俺のせいにしておいた方がいいんじゃねえのか?」


 甘い誘惑にドゥーラの心が揺らぐ。


「時間がねえんだ。早く決めてくれ」


 エイドは悪い笑みを浮かべながら、ドゥーラに言う。すると、ドゥーラは小さく言う。


「その言葉に、嘘はないな……?」

「ああ。もちろん」


 ドゥーラはしばらく黙った後、ゆっくりと立ち上がると、黙って開いていた扉を閉める。


「早くしろ。誰かに見られる前に飛ぶぞ」

「そう来なくっちゃ」


 飛んだ先に誰がいるかわからない。そこで、念のため、エイドはドゥーラの服を掴み、脅されているように演じる。そして、勢いよく扉を開いた――

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