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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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16.城内戦、開幕

 時は少し遡る。

 井戸に落ちたエアリアは、足がつかないほど、深い水の中にいた。まとわりつく服で動きずらくなりながらも、何とか水面から顔を出す。


「ぷはあ!ここは……」


 辺りを見渡すと、薄っすらと明かりがあるだけで、数メートル先は暗闇で全く見えない。屋根や壁はレンガ造りのトンネルのような構造になっていて、トンネルの真ん中に水が流れている。どうやら用水路のようだ。それも、埃っぽさやカビのようなジメジメとした臭が立ち込めている様子だと、かなり古い用水路だ。おそらく、今は使われていないのだろう。

 エアリアは近くにある足場に上がると、重くまとわりつく服を絞って水を落とす。そして、上を見上げて、落ちてきた穴を見る。落ちてきたはずの入り口の穴が見えない。相当な高さから落ちたようだ。それに加えて、天井の高さも、暗さであまりわからないが、かなり高そうだ。


「ここから登れそうにはないわね」

 

 エアリアは奥深くまで伸びる暗闇を見る。湿気と薄暗さが相まって、不気味さを醸し出してる。

 前と後ろ、どちらに進むべきか考えていると、後ろの方から冷たい風が流れてきている。


(外につながってるのかな?とにかくいってみよう)


 エアリアは暗闇の中へと向かって進んでいく。

 壁に沿ってしばらく歩くと、目の前に薄っすらと紫色の光が漏れている壁が見える。エアリアは、壁の前に立って、壁に軽く触れてみる。すると、壁は砂のように崩れ、音もなく消え去ってしまった。

 壁の向こう側には、小さな部屋があった。しかし、用水路には似つかわしくない、機械のようなものがずらりと並べられていた。ボタンがいくつもついた机のような機械につながっている大きなガラスの筒の中には、紫色の液体が満ちていた。


「なんなの、この部屋……」


 エアリアは不気味さを感じ取りながらも、部屋の中に入り、詳しく調べようとする。すると、足に当たった何かが、カラカラと軽い音を立てて部屋に響く。視線を落として、足にあたった何かを見た時、エアリアの背筋に寒気が走る。

 それは、人間のものとは思えない、何かしらの骨が転がっていた。歪んだ腕の骨や鋭い爪のようなもの。人間の頭蓋骨に似たものがあるが、額から大きな角が生えていたり、頭の部分がやけに伸びている。そんな不気味な骨が床一面に散らばっていたのだ。

 エアリアは唾を飲んで、早くなった鼓動を落ち着かせるよう、酸素を取り込む。ふぅーっと一息吐いて、骨を踏まないよう、再び部屋の中に入る。

 機械に詳しくないエアリアは、これが何なのかはわからないが、何か嫌な感じがしていた。機会に触れると、ひんやりと冷たさが指に伝わってくる。そして、指には厚く積もった埃がまとわりついていた。よく見ると、機械のあちこちは錆が回っており、動きそうにはない。恐らく、かなり古くからある設備なのだろう。


「用水路に、なんでこんなものが?」


 エアリアが呟いたその時だった。


「ググォォオオオォォオォオオォオオオオ!!」


 用水路全体が震える程の雄たけびが響く。エアリアは、慌てて通路に戻ると、剣に手を添えて構える。

 暗闇の奥からひしひしと伝わってくる威圧感。肌がひりつくのを感じると、手にじんわりと汗がにじむ。

 何かがこちらへ向かって歩いてくる。そのたびに地面がわずかに揺れる。

 そして、ついにその姿が見える。白と黒の毛が交互に模様を描いていて、針のように鋭い毛を全身に生やしている巨大な影。その眼は、血走っていて赤黒く、ギラギラと不気味に輝いている。

 ゴラオーリアだ。

 エアリアはトラウマからか、体がこわばっているのを感じていた。呼吸が荒くなり、体が震えだす。


「しっかりしろ、しっかりするんだ私………!」


 自分に言い聞かせるように呟くエアリア。その時、ゴラオーリアが腕を高く振り上げる。エアリアの全身に鳥肌が立つ。

 エアリアは無理やりに体を動かし、後ろに飛ぶ。次の瞬間、エアリアが立っていた場所に、ゴラオーリアの拳が突き刺さる。古くなっていたのか、足場は簡単に崩れ、激しい揺れがエアリアを襲う。転ばないように踏ん張っていなければ、立っていられない程だった。そんなエアリアを更に横薙ぎの拳が襲う。

 高く飛んでかわすエアリア。しかし、壁は粉々になり、粉塵で視界が覆われる。体全身に電流が走るような感覚が襲った瞬間、粉塵の向こうから、固く握った拳がエアリアを襲う。空中で身動きが取れないエアリアは、剣を拳に振るい、受け止めようとする。が、このままでは折れると思ったエアリアは、絶妙な力のバランスで攻撃を横に逸らす。

 エアリアは地面に着地すると、すかさず距離をとる。


「マリーさんの技のおかげで助かった……」


 エアリアが言うマリーとは、冒険者になるときに色々と指導してくれた冒険者だ。そのマリーの得意技は、攻撃をいなし、カウンターを狙う、《パリィ》だった。彼女のいなす技は、強すぎると衝撃を直に食らってしまい、弱すぎるても、衝撃を殺しきれずにダメージを追ってしまう。その、絶妙な力のコントロールは、一朝一夕で身につくものではなく、本人自身も五年はかかったと言っていた。それほど難しい技を、エアリアはやってのけたのだ。

 別に、この技を事細かに教えられたわけではない。エアリアが見て、()()たのだ。

 そう、エアリアが得意とするのは、類まれなる動体視力により相手の動きを《真似(コピー)》することだ。それも、一度見ただけである程度の動作は再現出来てしまうほど、彼女の才能は凄いものだった。

 エアリアは呼吸を整えると、覚悟を決める。


(私は戦える。皆を助けるんだ。それが、私の役目だから)


 エアリアはいつもとは違い、両手で剣を持ち、腕を上げて顔よりやや上の位置で剣を構える。これは、マリーが戦闘態勢になった時の構えだ。


「マリーさん。少しお借りします」


 エアリアが呟くように言った直後、唸り声を上げながら、エアリアを睨みつけるゴラオーリア。そして、地面を蹴って、エアリアとの距離を詰めると、勢いよく殴り掛かった――




 一方、その頃。エイドは城の中を走り回っていた。

 扉を開けては次の部屋へ、開けては次へと広い城をしらみつぶしに探していた。


「ぜぇ……ぜぇ……どこにいるんだ!」


 息を切らして扉を開ける。そこは、調理室でジェラードの姿は見当たらない。

 エイドは苛立ち隠せず、壊れそうな勢いで扉を閉める。そして、次の部屋へと向かう。そして、次の扉を開く。そこは、食糧庫だった。その時、エイドはあることに気が付いた。


「ここ、最初に見たよな?」


 エイドは同じ道を通った覚えはない。構造上、進み続ければ、一周してフラムと別れた大広間に出るはず。しかし、同じ部屋を通っているのはどういう事なのか。

 エイドは確かめるために、一つ前の部屋に戻り、扉を開ける。すると、さっきは調理室だったはずの場所が、風呂場になっていたのだ。

 明らかに異常なことが起きていると気が付いたエイド。


「なにかの魔法なのか?」


 エイドは一度立ち止まり冷静さを取り戻す。

 進めど、一向に一周し終わることのない通路。そして、部屋を開けるたびに異なる部屋につながる。一種の催眠的な何かかと思ったエイドは、自分の頬を思い切り叩く。頬は赤くなり、ヒリヒリと痛みがある。となると、催眠である可能性は低そうだ。

 だとしたら、何か空間に干渉する魔法なのかもしれない。


「試してみるか……」


 エイドは腰に下げている聖剣を引き抜く。あらゆるものを切り裂く剣。それは、魔法でも切り裂くと言われている。ならば、周囲を斬れば、この魔法は解けるのではないかとエイドは考えたのだ。

 エイドは剣を構えると、円を描くように、左の壁から床、右の壁と斬っていく。すると、断面がゆらゆらと蜃気楼のように揺れ始め、次第にはっきりとした断面になっていく。やはり、同じ光景が続く空間に閉じ込められていたようだ。

 すると、すぐ近くの扉がゆっくりと開く。気づいたエイドは、躊躇なく横なぎの斬撃を見舞う。しかし、扉の向こうには誰もおらず、物置部屋があるだけだった。その時。


「これ以上、城を壊されるのは困るな」


 エイドは声がする方を向くと、扉を開けて、長いひげを生やし、顔に傷跡がある男が現れる。


「これはお前の仕業か?」


 エイドの問いに男は笑って答える。


「いかにも、これが私の魔法、《夢を叶える魔法の扉(ラ・プエルタ・マヒカ)》この城の中のあらゆる扉につながることができる」


 やはり、たどり着けなかったのはこの男の仕業だったのか、とエイドは相手の出方を伺っている。

 この男は、この城の特殊衛兵をまとめ上げる隊長、ドゥーラ・イームオン。特殊衛兵は、非戦闘向けの魔法を使う者を集めて作られた部隊のことだ。ドゥーラのように、侵入者を捕らえることや、被害を最小限に抑えることが彼等の役割だ。

 エイドは警戒をしながら、相手の魔法を探る。


「道がずっと続いていたのもお前の仕業か?」

「いかにも。私が持つ二つ目の魔法。《遮るものなき(トゥール・ニューク)(・フープ)》。入り口と出口をつなぎ、円形状の終わりなき空間へと閉じ込める魔法だ」


 自分の魔法について、ぺらぺらとしゃべるドゥーラ。


(なんか、めちゃくちゃ教えてくれるんだけど、大丈夫なのか?)

 

 探ろうと思っていたが、全てを話してくれるドゥーラに、エイドは逆に何か罠があるのかと戸惑っていた。すると、ドゥーラがエイドに言う。


「貴様らは何をしているのか分かっているのか?」

「お前んとこの衛兵さんが悪いことしてるって言うから止めに来たんだろが。ジェラードはどこにいる?」


 ドゥーラは鼻を鳴らしていう。


「ジェラードさんはここにはおらん。それに、この城には、国に反逆しようと考える悪人などおらん。つまり、貴様らが今行っていることは、国家への反逆ぞ」


 ドゥーラに言われて我に返ったエイド。確かに、はたから見たら俺らは国に突撃してきた反逆者にしか見えない。このまま、ジェラードが見つからなかったら、俺らは打ち首は間違いない。


「そ、そそそ、そそ、そうかもな~!あはははは!」


 声を震わせ、汗をだらだら流しながらも、平然を装うエイド。そんなエイドにドゥーラが言う。


「よって、貴様を国家反逆罪とみなし、貴様を捕らえる」


 敵意を感じ取ったエイドは、先程とは打って変わって鋭い眼光で睨みつけて言い返す。


「やってみろよ。数時間後、ヒーローになってるのは、お前か、俺か。どっちだろうな」


 睨み合う二人の眼光がぶつかり合う。二人の戦いの火蓋が切られた。

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