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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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13.アンデット

 エイド達はヒスイ達と別行動で、宿代や食費を稼ぐためクエストを遂行しに、森まで来ていた。

 今回のクエストは、任意の魔獣二〇体の討伐だ。

 森の中をあるきながら、フラムは呟くように言った。


「しかし、最近やけに魔獣の数が増えたな」


 フラムは、食料を確保するため、結構な頻度で森に訪れている。そのため、ここにいる魔獣については、かなり詳しいのだ。


「そうなのか。森だから多いと思ってたけど、そういうわけじゃないんだな」


 エイドは周囲に警戒をしながら言った。そんなエイドに、フラムは思い出したかのように言った。


「ああ。お前達が襲われていた、あのでかい魔獣もそうだ


 聞いた途端、エイドとエアリアの眉が少し動いた。


「あいつは、ゴラオーリアって言うんだがな、普段人を襲うことなんてない、大人しいやつなんだ」


 それを聞いて、エイドとエアリアは驚きを隠せない。


「嘘つけよ!昨日のあれみただろ!」

「そうよ!明らかに襲ってたじゃん!」


 声を荒げる二人に、落ち着いた様子で答える。


「だからおかしいっていってんだよ。この時期、あいつらは、メスと一緒にいて、子作りに専念する。つまり、必ずメスと一緒にいるってことだ。だけど、あいつは一体しかいなかったし、かなり弱っていた。もしかしたら、何らかでメスを失って、メスのことを探しているのかもな」


 すると、エイドはエアリアの方を向いて言う。


「てことは、エアリアはゴリラと間違われたってことか」


 刹那、エイドの顔面にエアリアの拳が飛んでくる。あまりの速さに、エイドは避けることができず、直撃した。痛みに悶てうずくまるエイド。それを見ているフラムは呆れてため息を漏らした。

 その時だった。その場にいた全員が、殺気を感じ取ると、後ろに飛ぶ。直後、三人がいたところに、攻撃を仕掛けてきた魔獣が三体おりてくる。細い体を包む灰色の毛皮。鋭い目つきでこちらを睨む。猿のような魔獣の手には長く、鋭い爪が伸びている。


「オングルモンキーか」


 フラムは呟きながら、背中に背負っている剣を手に取る。ただの剣ではない。かなり分厚く、柄を合わせると、身長とほぼ変わらないほど、大きな剣だ。一般の男性でも、もつのがやっとだと思えるほどの重量感がある。それを軽々と持って構える。

 それに続いて、エイドとエアリアも剣を抜く。すると、三匹の魔獣は、それぞれに一斉に襲いかかる。

 フラムは、大剣で容易に攻撃を防ぐ。爪は砕け、その間に横薙ぎの一撃を振るう。深く抉る斬撃は、血しぶきを放ちながら、確実に急所の核を破壊する。

 エイドとエアリアも、攻撃を交わすと、たったの一撃で核を破壊した。


「よし、三体やったな」


 息も切らさず、当然のように仕留めるエイドとエアリア。すると、間髪入れず、近くから魔獣の殺気を感じる。


「また来たな」

「さっさと終わらせようぜ」


 フラムとエイドはそういうと、殺気が来る方を向いて構えた。




 しばらくして、魔獣を二十体倒し終え、魔獣を乗せた台車を引いていた。


「二十ってなると、かなり重いな」


 エイドは汗をかきながら、荷車を引く。


「いや、二十一体の間違いじゃねえか?」


 エイドと一緒に荷台を引くフラムは、息を切らしながら言う。


「確かに、そうだったわ」


 エイドは後ろを見ながら言うと、荷台の空いているところにエアリアが座っていた。すると、会話が聞こえていたのか、エアリアはいう。


「こういう力仕事はあんた達、男の仕事でしょ」

「ゴリラと勘違いされたくせに何言ってやがる」


 小声で愚痴を吐いたエイドの後頭部に鈍い痛みが走る。エアリアが投げた小石が直撃したのだ。それを見たフラムは呆れたように言う。


「お前、頑丈だな」

「唯一の取り柄だ」


 二人は会話を済ませると、黙って荷車を引く。

 と、次の瞬間。エイドの背筋に寒気が走る。次第に肌に鳥肌が立つ。耳が良いフラムも気がついたのか、咄嗟に音がしたほうを向く。物凄い速さで何かが近づいてくる。

 エイドは荷車の引き手から出ようとしたその時だった。草の中から、何かが飛び出してくる。それを見て、エイドは目を丸くしていた。

 飛び出してきたのは、剣を持った人骨だった。まるで墓地から出てきたかのように、チラホラと腐った肉を体につけ、ボロボロの布をまとっている。

 エイドは迫りくる斬撃を防ごうと、剣を抜こうとする。しかし、引き手の中では狭すぎて、上手く抜けない。もたついているうちに、斬撃がすぐ目の前に迫っている。

 刹那、ガギン!と、火花を散らし、金属同士が打ち合った音が響く。間一髪のところで、エアリアの剣が人骨の一振りを弾き飛ばしたのだ。


「ナイス、エアリア!」

「礼は後、さっさと手貸してよ」


 エイドとフラムは急いで引き手から出ると、剣を抜いて構える。すると、隣にいるフラムが言う。


「アンデットまでいるのか。どうなっちまったんだこの森は」


 フラムが言うように、人骨はアンデットと呼ばれる、死者に魔獣の魔力が宿ったものだ。アンデットは、死体に宿ることで魔獣になる。しかし、そんな簡単にアンデットになるわけではない。冒険者の間では、非常に珍しい魔獣だ。この森で出たというのは聞いたことがない。フラムが驚くのも無理はない。

 人骨のアンデットは、再び剣を構えると、エイド達に殺気を放つ。

 エイドは冷や汗を流しながら言う。


「あいつ、強くね?」

「うん、ヤバそうな気配」


 エイドとエアリアの剣を握る手に力がこもる。その隣で、重心を落として大剣を構えるフラム。

 アンデットの討伐推奨等級は最低でも銀等級(シルバーランク)以上を要する。つまり、エアリアの階級の一つ上の階級の冒険者が、数人集まることで討伐することを推奨しているのだ。

 エイドとエアリアが感じ取った嫌な感覚は正しいと言えるだろう。

 三人とアンデットの間に緊張感が走る。

 先に動いたのはアンデットだった。ノーモーションからの加速。力みがないとは思えない速度で、一瞬でエアリアとの距離を詰める。喉元めがけて振るわれた一撃を、エアリアは間一髪で防ぐ。剣を弾かれ、無防備になったアンデットの脇腹から、胸にかけて一撃を放つ。しかし、剣の平に手を添えると、そこを軸に中に舞うように身を翻す。それを狙っていたフラムは、大剣を持つ手に力を込める。すると、大剣に熱がこもっていく。徐々に剣の表面に炎が浮き出ると、それを大きく振ろうとした。しかし、フラムの動きが固まる。

 フラムの剣は、熱を失い、そのまま振るった。一瞬の透きに体制を立て直していたアンデットは、フラムの斬撃をいなすようにして交わすと、その動きのまま、フラムの首を狙う。その攻撃を、エアリアが弾くと、アンデットは再び距離を取り、振り出しに戻る。


「大丈夫!?」

「悪い、油断した」


 表情が少しかたくなったフラムを見て、エイドは少し気になった。が、いちいち気にしている余裕もない。

 アンデットが再び剣を構える。


「また来るぞ!」


 エイドが二人に注意するように言った。その時だった。

 遠くから冷気が流れ込んできた。その冷気に乗って、キラキラ輝く砂のようなものが漂う。刹那、地面を這うように、アンデットめがけて氷が迫る。

 アンデットは慌てて後ろに飛ぶが、まるで意思を持っているかのように、アンデットを追尾する。そして、アンデットの足を捕まえると、そこから一瞬で全身に氷が広がっていき、瞬く間に氷漬けにされてしまった。


「一体何が起きた?」


 エイドは驚きながら呟くと、氷が伸びてきた方から声が聞こえて来る。


「大丈夫かい?」


 カシャカシャと足音を立てながら草木を抜けてきたのは、新しくなったのか、妙に真新しい青い鎧を着たジェラードだった。


「それとも、邪魔をしてしまったかな?」


 笑顔で言うと、パチン!と指を鳴らす。それを合図に、アンデットごと氷が粉々に砕ける。

 一瞬で周囲の気温が下がり、ブルッと体を震わせる三人。


「ああ。助かったよ」


 エイドは苦笑しながらジェラードに言った。


「ジェラードさんはお一人でどうしてここに?」


 エアリアは不思議そうに尋ねると、ジェラードは優しく微笑みながら答える。


「最近、魔獣の動きが活発になっていると聞いてね。その調査も兼ねて、討伐をと思ってね」

「この前は大勢連れてたのに、今日は一人なんだな」


 エイドは睨みつけるようにジェラードに言った。すると、ジェラードは苦笑しながら答えた。


「彼らにも仕事があるからね。軍を連れて行くときは月に一度だけなんだよ。僕の仕事は、魔獣の活発化の原因調査と討伐だからね」


 ということは、高い頻度でこの森に来ているのだろう。そんなことを考えているエイドにジェラードは言う。


「もう大丈夫かい?帰りが心配なら、手を貸すけど」


 ジェラードの行為に、エイドは嫌そうな顔をしながら言う。


「いらねえよ。さっさと仕事に戻んないと、王様にチクっちまうぞ」

「それは困まるね。なら、僕はこれで失礼するよ」


 笑顔で会釈すると、ジェラードは森の奥へと向かっていった。

 エイドはその後ろ姿を見送りながら、なにか考えごとをしてるようだった。それに気がついたエアリアが聞く。


「どうかしたの?」

「いや、なんでもない」

「そう。なら早く帰りましょ。また、あんな骸骨が出てきたら、いくら命があっても足りないよ」

「それもそうだな。ヒスイ達の進捗も気になるし、早く戻るか」


 そう言って、エイド達は再び帰路についた。




 戻ってたエイド達は、報告を済ませて図書館へと向かった。中に入ると、ヒバナが笑顔でこちらに手を降っている。


「ヒバナちゃんお疲れ様。調子はどう?」

「まあ、ぼちぼちって感じかな」


 ヒスイは読んでいる本を閉じて言う。


「過去の新聞を読んでわかったけど、この事件、結構大事かもしれない」


 その言葉に、エイドとエアリアは眉をひそめる。そんな二人に資料を見せる。それは、七〇年前の新聞だった。


「ここに書いてあるように、七十年前にも子供攫いがあったみたい。まだわからないけど、その前からあったのかも」

「まじかよ!?そんな前まで遡るってなると、きりがないぜ」


 頭を抱えるエイドに、疲れ切った顔をしたヴェルフが言う。


「その必要はねえんじゃねえか」


その言葉に、エイドは期待の眼差しを向ける。


「ほんとか!?」

「ああ。子供攫いが初めて起きたのは百年前だ。だが、六十年前から十年前までは事件なんて起きなかったんだ」

「てことは、犯人の年齢は百歳越え!?」

「いや、有り得ねえだろ」


 驚くエアリアに冷静に突っ込むフラム。

 エイドは今までの情報を整理する。子供攫いは過去にもあったが、最近になってまた事件が起きた。五十年間、何があって子供攫いが起きなかったのか、何があって再び事件が起きたのか。犯人は同じなのか、違うのか。人か、魔獣か。


(不確定要素が多すぎる。これだけ痕跡が残っていないとなると、知性が低い魔獣じゃ難しいよな)


 エイドは顎に手を当てて考える。考えれば考えるほど、色々な可能性が浮かんできて、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。考えすぎて熱が出そうだ。


「取り敢えず、今日はもう遅いし、このくらいにしておこうか」

「そうだね。日もくれてきたし」


 エアリアが言うようにう、外は薄っすらと闇が包み始めていた。


「ヴェルフさんもありがとうございました」


 エアリアが言うと、ヴェルフは無言で手を振って、足早に図書館を出る。それに続いて、フラムとヒスイも後にした。

 三人の後ろ姿を見送ったエアリアは言う。


「このクエスト、成功できるかな。こんなに助けてもらって、何もできなかったらどうしよう」


 珍しく自信なさげなエアリアにエイドは少し驚いていた。そして、俯いているエアリアに言う。


「まだ始まったばっかだろ。やれるだけやろうぜ。できなかったら、全員で頭下げればいいだけだろ」

「うん。そもそも、このクエストは難しい。エアリアがそこまで思い詰める必要もないと思う」


 エイドとヒスイの言葉に、背中を押されるエアリアの表情は少し柔らかくなった。


「そうだね。ありがとう」

「よし、腹減ったし、飯食いに行こうぜ」


 エイドの言葉を合図に、三人はバッツの店へと向かった。

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