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村人が世界を救って何が悪い  作者: まよねえず
第一章:悪魔の炎編
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10.親睦会

 ギルドの中は、何やら騒がしくなっていた。受付のカウンターの前に、十人以上の人だかりが押し寄せている。そこには、クエストの報告に来たエアリアがいた。

 エアリアの後ろにあるハバリーファングを見て、受付嬢は引きつった笑みを浮かべている。


「本当にあなたがこれを?」

「はい。そうですけど、なにか問題ありました?」


 首をかしげるエアリアに、受付嬢は困惑した顔をしていた。

 成功しないと思っていた受付嬢だったが、たった一人でこなしてしまうとは思ってもいなかったのだ。ほかの冒険者も、クエストの難易度を知っていたため、若い新人の冒険者がたった一人でクリアしたということを聞き、ざわついていたのだ。

 受付嬢は引きつった笑みを浮かべながらも、自分の仕事を(まっと)うしなければと、エアリアに説明する。


「そ、そうですか。それでは、こちらが報酬の銀貨十枚です。そして、このハバリーファングを買い取りたいという方がいらっしゃったので、加えて銀貨十枚の追加報酬になります」


 受付嬢は、布袋に入った硬貨をエアリアに渡す。エアリアは中を確認して、枚数が合っていることを確認する。


「確かに受け取りました。それでは、私はこれで」


 エアリアは、追加報酬に胸を踊らせながら、終始困惑して引きつった顔をしていた受付嬢に会釈すると、踵を返し出口へと向かう。すると、見計らっていたかのように、何人もの冒険者がエアリアに群がってきた。


「君、一人なんだって?俺と一緒に来ないか?」

「そんな奴より私の方がいいわよ!魔法だって使えるんだから」

「俺はもうすぐ昇給するんだ。金がいるんなら一緒に来なよ」


 こういったことは、ギルドではよくあることだ。階級がなかなか上がらない冒険者や実力が実らない冒険者は、エアリアのように実力があってかつ一人冒険者に言い寄ってパーティを組もうとする。競争の激しい世界ともあって彼らも必死なのだ。

 エアリアは、困った顔をしながら、道を切り分けて、


「私、もう仲間がいるので、失礼します」


 早口で言うと、その場から逃げるように急いで外にでた。慌てた様子にエイドとヒスイは驚く。


「ど、どうした?そんなに慌てて」

「はあ、はあ……なんでもない」


 大きく息を吸い込んで、呼吸を整えたエアリアは、


「それより、ハバリーファングを買い取った人から追加報酬で銀貨一〇枚もらったんだけど、これで美味しいものでも食べに行かない?」


 と、握りしめた銀貨が入った袋をエイドの前に突き出す。


「やりー!それじゃあ、早速バッツの所にレッツゴー!」


 エイドはガッツポーズをした後、鼻歌交じりでスキップをしながら店へ向かおうとする。すると、エアリアはエイドに向かって言う。


「フラムとヒバナちゃんを呼ぶのはどう?今日のお礼もしたいし」


 聞いた瞬間、ピタリ、とエイドの動きが止まった。すると、ゆっくりとエアリアの方を振り向くエイド。その顔は凄く嫌そうな顔をしていた。


「エアリアの言い分も正しい。エイド兄ちゃん、貸をつくって返さないのは、男としてどうかと思う」


 ヒスイはエアリアをかばうように言った。

 エイド自信も、助けてもらい何もしないのはどうかと思っていた。しかし、それでは、助けてもらったということを認めてしまうという、変なプライドが邪魔をしていた。

 エイドは、苦虫を嚙み潰したような顔で言う。


「確かに、貸をつくったままってのは良くねえな」


 ようやく素直になったエイドを見て、ヒスイとエアリアはお互いに目を合わせると思わず微笑んでしまった。


「それじゃあ、探しに行こう」


 エアリアは、腕を大きく振り、張り切った顔で歩き出す。




 一方で、家に戻るために街の中を歩くフラム達。フラム達の家は、ヴェルフの鍛冶屋とは反対側の町外れにある。

 ヒバナは不貞腐れながらフラムに言う。


「私、もっとエイドさん達と話したかったな」

「だめだ。あいつはお前にとって悪影響だからな」


 フラムはエイドの嫌な顔を思い出しながら言った。

 すると、街の人達が二人を見ながら何やらささやいていた。


「おい、見ろよあれ」

「ああ、()()()()か」

「またうろついてるのか」

「早くここから出てってくれねえかな」


 冷たい視線を感じた二人は俯いたま、歩く速度を上げる。人の前を通るたびに聞こえてくる陰湿な声に、フラムは歯がギリギリと音を立てる程食いしばり、怒りをこらえていた。

 フラムは、生まれつき耳が良いい。ヒバナには聞こえていないようだが、何かを言われているのははっきりと聞こえている。

 何故こうなった。俺らがお前らに何をしたんだ。そう言い返してやりたい、ぶん殴ってやりたいと、何度思ったことだろうか。

 怒りが湧き上がるフラムの手の甲からシューと音を立てながら、小さい蒸気が湧き上がる。

 フラムの怒りに気づいたヒバナは、優しくフラムの服を掴む。


「兄ちゃん、大丈夫、大丈夫だから」


 服を掴むフラムの手は、不安からか震えていた。

 妹にまで、こんな辛いを思いをさせてしまっている。フラムは自分の無力さに心底腹が立っていた。

 ここで騒ぎを起こしては、ヒバナにも迷惑をかけてしまう。そう思ったフラムは黙って歩いていたその時。


「お、やっと見つけたぞ」

「ヒバナちゃーん!フラムー!」


 自分の名前を呼ばれ、振り向く二人。そこには笑顔で手を振るエアリアと、嫌そうな顔をするエイド、そして小さく手を振っているヒスイがいた。

 その姿を見た二人は、怒りという感情がどこかへ消えていくのを感じた。


「みんなどうしたの?」

「まだなんか用か?」


 嬉しそうな顔をするヒバナに対し、鬱陶しそうに聞くフラム。


「いや、なんだ、その……あれだ……」

「エイドが、今日助けてくれたお礼をしたいんだって」

「勝手に言うなよ!」


 エイドは、エアリアに言葉を取られて思わず声を荒げる。


「それでね、一緒にご飯でもどうかなって」


 エアリアはフラムとヒスイに提案する。すると、二人はとても驚いていたのか、固まってしまった。それを、エアリアは不思議そうに首を傾げて見つめていた。

 フラムとヒバナにとって、これほど親切にしてくれる存在に出会ったのは初めてだった。ある事件をきっかけに、街の人からは陰口を言われたり、ものを投げられることもあったりと親切なんてものは微塵もなかった。しかし、今目の前にいる三人は違った。出会って間もない、言わば赤の他人の自分たちに、何故そこまで親切に出来るのか。何故関わろうとしているのかわからなかった。だからこそ、戸惑っていた。こういう時、どうすればいいのか。何と答えればいいのか。

 フラムが迷っていると、


「兄ちゃん……」


 優しさに嬉しくなり、それに甘えてしまえば、彼らに迷惑がかかってしまうという葛藤から、こぼれそうな涙をこらえ、震える声で言った。心の底では周りの視線なんて気にせず、みんなと行きたい、そう思っていた。しかし、そうすることはできないと、理解しているからこその涙だった。

 その気持を誰よりも知っているフラムはフラムの顔を見た後、エイドに言った。


「俺らは一切、金出さねえからな」


 その言葉に、ヒバナは顔を上げて驚いた様子でフラムを見る。今までのフラムなら断っていた。だから、予想をいい意味で裏切られたヒバナは面食らった顔をしていた。

 エイドはフラムに不機嫌そうな顔をして答える。


「当たり前だ。さっさと行くぞ」

「そうそう、時は金なりだよ」


 エイドは一足先に歩き出す。そして、エアリアはフラムの背後に回り込み、せかすように背中を押す。ヒスイもヒバナの手を取り引っ張るようにしてエイドの後を追う。

 その時、ヒバナの目から自然と大粒の涙が零れ落ちる。それを見たヒスイは強く引っ張りすぎたと思い、動揺して手を放す。


「ご、ごめん?痛かった?」

「違うの……あれ、おかしいな……何で……」


 何度拭っても、何度止めようと思っても、意思に反してあふれ出す大粒の涙に、ヒバナ自身が一番戸惑っていた。

 ヒスイは心情を悟ったのか、優しく微笑むと、肩にそっと手を添えて一緒に歩く。結局、ヒバナは店に着くまで涙は止まらなかった。




 店にたどり着いた、エイド達。目の前には、すでにたくさんの料理が並べてあった。


「それじゃあ、私の初クエスト達成記念と、フラムとヒバナちゃんとの親睦会を兼ねて――」

「「「かんぱーい!」」」


 エアリアの音頭に合わせて、エイド達は樽のジョッキをお互いにぶつける。

 エイドとエアリアは、樽のジョッキに入った飲み物を一気に飲み干す。


「「ぷはー!最高!」」


 あまりの飲みっぷりに、フラムは思わず突っ込んでしまう。


「仕事終わりのじじいかよ」


 言いながらも、フラムはジョッキの中の液体を乾いた喉に流し込む。そこへ、料理を持ってきたバッツがフラムに言う。


「それにしても、お前が誰かと飯なんて、意外だな」

「気まぐれってやつだよ」


 いつもとは違う、少し穏やかな雰囲気のフラムに、バッツは嬉しそうに言う。


「ほらほら、いっぱい食え!食わなきゃでかくなれないぞ!」

 

 フラムの背中を叩きながら目の前に料理を出と、少し戸惑いながら、出された料理を無言で食べる。

 最後にこうやって誰かと食事をしたのはいつだろうと、考えながら口に食事を運ぶ。こんな時、昔の自分はどんな顔をしていたのかも忘れてしまった。それほど、フラムは食事を楽しむこともなかったのだ。

 そんなフラムを見かねたエアリアは、口の周りに食べ物を付けながら言う。


「フラム~、君はわかってないな」

「何がだよ」


 困った表情で聞き返すフラムに、エアリアはカッ!と目を見開いて言う。


「飯はもっと、楽しく食べるもんだろうが!」


 拳を握って熱く語りだすエアリア。突然大きな声を出すエアリアに、フラムは目を丸くしていた。


「そうだよ、兄ちゃん!せっかくのご飯なんだから、楽しまないと!」


 両手に骨付き肉を持って頬張りながらヒバナは言った。その後も、ヒスイと話をしながら笑みをこぼす。こんなに楽しそうなヒバナは初めて見た。

 ヒバナの顔を見たフラムは、ここで笑っていないのが自分だけだと気がつく。そして、変に緊張している自分がバカバカしくなったフラムは、


「そうだな」


 と、笑って呟くと目の前の肉を豪快に頬張った。

 それを見たエアリアは、どこで対抗心を燃やしたのか、


「なかなか言い食いっぷりだね!私も負けてられない!」


 と、更に口に料理を詰め込んでいく。それを見たエイドはあることを思いつく。


「よっしゃ、誰が一番食えるか勝負しようぜ」


 エアリアとフラムに言うと、二人は笑って言う。


「「乗った!」」


 それを合図に三人の大食い対決が始まった。

 その後も、笑いが絶えない、賑やかすぎる食事会は夜遅くまで続いた。

 ヒスイとヒバナは、年が近いということもあったのか、すっかり打ち解けてずっと話をしていた。疲れたのか、今は二人共ぐっすりと眠っている。エアリアも、幸せそうな顔をしながら、へそを出し床に転がって眠っている。

 地面に転がるエアリアをまたがって、エイドは外の空気を吸うために店を出る。


「ふぅ、食った食った!」


 店の扉の直ぐ側にはフラムも座っていた。

 エイドは、失礼とフラムの隣に座ると、フラムはエイドに呆れたように聞く。


「エアリアとか言ってたな。あいつの胃袋どうなってんだ?」

「俺も聞きてえよ」

 

 大食い対決は、エイドとフラムが五人前をなんとか食べ終え、エアリアが余裕の表情で九人前の食べ物を平らげた。結果、エアリアとなった。

 エイドとフラムの間に沈黙続き、気まずい空気が漂う。先に沈黙を破ったのはフラムだった。


「今日はありがとうな」


 急に改まった様子で言うフラムにエイドが答える。


「なんだよ急に、。それに、礼を言うのはこっちの方だっての」


 しばらく黙った後、フラムは言う。 


「妹があんなに楽しそうにしてるのを見たのは初めてだったからよ」


 フラムは手に持っていたジョッキの中身を口に流し込む。少しの間を開け、エイドはフラムに気になっていることを聞いた。


「なあ、一つ聞きたいことがあるんだけどよ」

「なんだよ、改まって」


 エイドは一口飲むと続けて聞いた。


「お前とヒバナちゃんの過去に、一体何があった」


 すると、フラムの体は時が止まったように動きを止める。ジョッキの中に映る自分の顔を見て、フラムは過去の出来事を思い出す。

 しばらく黙った後、フラムは口を開いた。


「今から言うのは独り言だ。聞くのも聞かないのも好きにしろ」


 そして、フラムは自分の過去について語った。

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