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2 ここが天国かなと思ったのです


「メーラ伯爵令嬢、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 何度も繰り返されるこのやり取りに、そろそろ飽きてきた。主役として、会場から離れることができず、お腹も空いたし、何よりも笑顔を貼り付けすぎて顔が痛い。

 来客の途絶えた隙にぐるりと会場を見回すと、色んなタイプの角や耳、しっぽがあって、この世界は広いと実感する。理想の男性探し、じっくり見定めなければと思っていたのだが、残念ながら好奇の目で見られているのは私である。


 どれくらいの時間、挨拶を繰り返したのだろう。色んなけも耳、しっぽ、角を見すぎて何がいいのかわからなくなってきた。

 やはり、慣れ親しんだ羊の獣人やオスカーのような狼の獣人が良いだろうか。でも、大きな角も捨て難い。

 この世界では、何の動物を先祖に持つのかを聞くのはタブーとなっている。しかし、特徴的なパーツを隠すことはしていないので、なんとなくわかる。皆、暗黙の了解で判断している。

 むしろ、隠すどころか見せびらかすのが良いとされ、どう見ても邪魔そうな角や、ふっさふさのしっぽを外に出して歩くのがステータス。

 ああ、私もそれに憧れていたのに。


 ここ、ルロワ家の邸宅は当然ながら私たち人間用に作られており、獣人への配慮は控えめである。大きな角をお持ちの方が扉に引っかかるのを何度か目撃した。


 そして、貴族階級が上がると肉食に分類される動物を先祖に持つものが多くなる。これは自然の摂理なのだろう。


 先程、真っ先に挨拶をしたこの国の王様は、獅子を先祖にもつ一族だ。

 初めて間近で挨拶したが、さすが王様である。

 それはそれは神々しく、気高いという言葉がぴったり当てはまる。

 そんな王様と言葉を交わすだけで身震いがしたし、なんだったら食べられるかもという恐怖すら感じた。これが捕食される側の気持ちなのだろうか。

 もちろん食べられるわけはなく、それどころか、爽やかな笑顔で挨拶されて、くらっとくるくらい素敵なおじさまだった。

 金色のふさふさの髪の毛と猫科の耳、服の隙間から出る、先がモフっとしたしっぽは実に魅力的だ。

 隣にいた王子も同じような風貌で、とても見目麗しく男前であった。もふもふも王様に負けていない。

 今まで挨拶した中で王子が一番好みではあったのだが、まあ、なんとなくわかってはいたが、王子にはすでに婚約者がいて、自他共に認めるラブラブっぷり。すでに付け入る隙はないようで。そんな彼女は、本日体調不良で欠席らしい。

 そして、何より王族と結婚できるのは同じ獅子を先祖にもつ獣人だけである。残念。


 ぼんやりと、目の前で父と会話する鹿の獣人さんの向こう側を見ていると、ばちりと目が合ったヒョウ柄しっぽの男性がウインクをしてきた。あれが誰だかわからないけど、もちろんヒョウも嫌いじゃない。あの柄、とっても綺麗。

 今まで近くにいた男性と言えば、家族を除けば幼馴染で狼のオスカー、羊の執事たち、こっそり覗いた父の会合相手……

 ここまで色んな人に会ったことは今までなかった。皆それぞれ魅力的で……どうしよう、選べない。

 淑女あるまじき笑みが漏れそうになったところをどうにか堪えた。


 今、どうやら私と仲良くなりたいらしい、巻角と白耳でふわっふわの髪の毛をもつ羊のご令嬢と三角お耳と長い綺麗なしっぽの三毛猫のご令嬢に囲まれて、幸せなような生殺しのような状況で、私は色んな衝動を我慢して、なんとか笑顔を貼り付けているところである。


「メーラさま。今度うちの庭を見にいらして。綺麗な緑の原っぱがあるの」

「ええ、ぜひお邪魔させてください」


 自慢できるのが原っぱでいいの? それはあなたが羊さんだからですか……?

 私の戸惑いを他所に、ゆったりにこやかに微笑む羊の女の子はシルヴィ伯爵令嬢。


「あら。うちのお庭のほうがきっとメーラさまの好みに合いますわよ。シルヴィさまもいらしたことがあるでしょう? 日当たりのいい場所でお茶会をしましょう」

「はい! ぜひ伺いたいです」

「わあ、楽しみですわ」


 美人系でツンとした態度ながら、日向ぼっこがお好きらしい三毛猫の女の子はニナ伯爵令嬢。


 ふたりはどうやら前から仲がいいらしく、私にはわからない話もあったが、ふたりの耳やしっぽが感情に合わせて動くのが見ているだけで面白いし、実に可愛い。

 ああ、触っちゃだめかな……

 シルヴィの白い耳とフワフワくるくるの髪の毛はとても気持ちよさそうで、ニナの猫耳もきっとベルベットのような触り心地に違いない。

 二人の獣耳にうっとりしているうちにどんどん周りに女の子たちが増えてきて……


「メーラ伯爵令嬢、うちにもいらして」

「え、あ、はい」

「うちにも!」

「ええ……」


 もはや誰が誰だかわからない。もう少し幼い頃から同性との交流くらい持たせて欲しかった!


「メーラ、少し休憩をしてきたら?」

「お兄様!!」


 まさに救世主。やっとこの場を離れることができる。声を掛けてきた兄の周りには、あっという間に色とりどりのドレスの壁ができた。


 兄は、甘い顔立ちに私と同じ赤い髪、そしてハチミツのような金色の瞳を持っている。身内の贔屓目抜きで、かっこいいと思う。

 歳は私の三つ上で、次期ルロワ伯爵であるし、もちろん私と同じく生粋の人間。

 まだ婚約者はいないわけで、これは優良物件に違いない。私は兄に狙いを定めたご令嬢たちの輪をするりと抜けることに成功した。


 そのまま、そそくさと近場の空き部屋に逃げ込んだ。


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