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11 女子会のようです

 ついに獅子王子の婚約者様とのお茶会の日がやってきた。


 なぜ婚約者様からお呼び出しがあったのか、いくら考えてもわからなかった。彼女は当日体調不良で来ていなかったから、まだ会ったことはない。

 婚約者様も人間に興味があるのだろうか。それともライオン王子から何かを言われたのか。……王子様と会ったのは最初の挨拶だけのはずである。確かにライオン男子は魅力的だが、横恋慕する趣味はない。王子様を奪い合うライバル、なんてことにはならないはず。婚約者様とはぜひ仲良くしておきたい。彼女の母親が父マルクの姉、獣人に嫁いだ人間だ。あわよくば、伯母に聞いてみたいことがある。


 私は誕生パーティーのあと、何度か獣人男子とお見合いをした。しかし、どれも上手くいっていない。初めから断るつもりで挑んでいるが、そうではなくて、毎度身の危険を感じているのだ。

 はじめにお見合いしたレナール卿については、私が唆したのが悪い。しかし、そのあとからは私のせいじゃない。何もしていないのに、会う人会う人に襲われかけて、すっかり獣人男子が恐くなっていた。

 荒い吐息と血走った目。思い出すだけで身震いする。私が可愛いから、というだけでは説明がつかない。人間であることが原因なのか……母にそれとなく聞いてみたが特に収穫は得られなかった。父も兄も同様だ。

 そして、メイドのリナに至っては「まるで、私たちの、は、発情期のようですね」と照れまじりに言われる始末。


 発情期……交尾可能な生理状態にあり、交尾をもとめる行動をおこしている時期。


 私の今の状態がそれに近いというのだ。

 当たり前だが、私自身は発情している自覚はない。至って普通。健康である。なんたって、けも耳も角もしっぽもない人間なのだから。私の身体に何が起きているのか。わからないことが多い。

 しかし、このまま獣人男子恐怖症になってしまうと、人間であるアミールと結婚するほかなくなってしまう。もはやその道しか見えなくなっており、ため息が漏れる。

 アミールについても、もう少し知る必要があるのは確かなのだが……




****




 獣人従者が引く馬車に乗って会場に向かっていた。

 この世界には獣人がいるが、動物もいる。愛玩動物として犬猫を飼っていたり、牛肉や豚肉、鶏肉も料理として出てくるし、移動手段や労働力として馬や牛を使う。それの面倒を見ているのが、牛っぽい特徴を持つ獣人だったりして、何とも言えない気持ちになったりもする。

 それはそれとして、到着した場所は立派なお城。王子の婚約者は城でお茶会が開けるようだ。

 ハイエナっぽい特徴を持つラスティンと名乗る獣人男子に案内された場所は、綺麗な庭が見える一室だった。

 まだ誰もいない室内にドキドキ、そわそわして落ち着かない。すでに美味しそうなスイーツが並んでおり、それも目に毒だった。


 少しすると、ドアの開く音がする。


 入ってきたのは三人の女性だった。


「お待たせしました。初めまして、レーヌ・ミュレーと申します。気軽にレーヌとお呼びくださいね。メーラ嬢、先日のパーティーにお邪魔できず、すみませんでした」


 スラリとした体型にきらきらと光を反射させる綺麗な金色のウェーブの髪。エメラルドの様な瞳を細め、美しく微笑んだ女性は綺麗にお辞儀する。頭には猫科のお耳がついていた。彼女が、この国の王子フィリベール殿下の婚約者だ。先がもふっとしたしっぽがゆるりと動き、つい目で追ってしまう。


「っ、あ、はじめまして。ご挨拶遅れまして申し訳ありません。メーラ・ルロワと申します。メーラとお呼びください。レーヌ様は体調を崩されていたとお聞きしましたが……」

「あら、やだわ。聞いていたのね。そうなの。殿下が悪いのですけどね。アレが治まらなくて」

「アレ……?」


 彼女はふふふ、と可愛らしく微笑んだ。


「あ、こちらはシャルロットとアーヤよ。彼女たちとはパーティーで会ったかしら?」

「シャルロット・ホーランです。私もシャルロットと呼んでくださいな。メーラ様は大変人気者でらしたから、あの時はあまりお話できなかったの。ゆっくりお話できる機会ができて嬉しいわ」

「私はアーヤ・キャバリアです。私もお気軽にアーヤと。素敵なパーティでした。ご招待いただきありがとうございました」

 

 シャルロットと名乗ったご令嬢は垂れたうさ耳がついており、青い瞳が特徴のまさに美少女という雰囲気。白っぽいプラチナブロンドのふわふわの髪と相まって儚げな印象だが、はきはきと喋るので見た目とのギャップがある。


 アーヤと名乗ったご令嬢も垂れ耳だったが、こちらはどちらかというと犬のよう。赤茶の波打つ髪と同じ色の瞳。レーヌ様と同じくメリハリのついた体型が目を引き、こちらもさばさばとした印象を受けた。


「彼女たちは学園時代からの友人で、今日のお茶会にも招待させていただいたの。素敵な時間にしましょうね」


 にっこりと笑ったレーヌ様が執事に指示して紅茶が注がれる。手早くお菓子が取り分けられると、会が始まった。


「レーヌ様が最近表にでなかったのはやはりフィリベール様のせいだったのですね」


 やれやれといった様子でアーヤ様が首を振る。


「あの方もなかなか落ち着きませんね。レーヌ様という人がありながら」


 シャルロットもため息を吐いた。


「結局私のところに戻ってくるのですから、可愛らしいものですよ。ただ、今回は私も我慢できず、少しキツめにお仕置きしたら、メーラのパーティまでに治まらなくなってしまって」

「私もそろそろ時期が来るので、早めに薬を飲んでいます。相手もいないのに、いやですわ」

「あら、ルシアン様とその後は?」

「アーヤ、それは嫌味かしら。私がフラれているって知りながら」

「アーヤこそ、最近ラスとはどうなの? 相変わらずかしら」

「そうですね。今日も仕事前に会いにきましたね。毎度毎度飽きもせず」

「ふふ、仲良しでなによりよ」


 お茶会とは恋の話をする女子会のことのようだ。私も知っている名前が飛び出しながら、ご令嬢たちはキャッキャと恋の話に花を咲かせている。

 フィリベールとはライオン王子のことで、ルシアンとはあのうさ耳男子のこと。ラスとはおそらくだが、先ほど案内してくれたハイエナ男子なのだろう。


 それぞれが想い人について愚痴や惚気を披露していた。


「そういえば、メーラはもう婚約者がいるのかしら?」

「へっ」

「最近、ルロワ邸によく馬車が止まると聞きましたが、もしかしてお見合いですか?」

「あっ」

「人間のご令嬢なのですから、たくさんのお話があったのでしょう?」

「うっ」


 急に回ってきた自分の番に慌てて、ケーキに刺していたフォークを置く。


「わ、私は、母から人間の男性を紹介されたのですが、どうにも相性が悪くて……」


 アミールの顔を思い出し、つい顔をしかめてしまう。


「あら、そうなの! やはり、ルロワ伯爵は人間の血を大切にしているのね」

「でもメーラにはお兄様がいるわよね? あなたが血を繋ぐ必要はないと思うのだけど」


 シャルロット様は手を合わせ悩むような仕草をし、紅茶を口に運ぶ。レーヌ様は心配そうに私の顔を見た。


「そうなんですが、兄に合った女性が見つからないようで……」

「そうなの……あ、私の母があなたの伯母にあたるのはご存じ?」

「! はい! ぜひ一度お会いしたいです」

「ええ、また機会を設けるわね。そうそう、あなたに聞きたいことがあったの」

「はい、なんでしょうか」


 レーヌ様が急に姿勢を正したため、一気にお茶会が緊張感に包まれた。


「あなた、今発情期? 薬は飲んでいるの?」

「……は、はい?」

「私も聞こうと思ってました。さっきラスに言われたんです。メーラ嬢は出歩いて平気なのかって」

「ど、どういうことでしょう……」

「……メーラ様、もしかして発情をご存じないのではないかしら」


 急に改まって何を聞かれるかと思ったら、発情期。私は人間ですよお嬢さんたち。そんなことあるはずがない。確かにシャルロット様のいうように、獣人たちの発情について知らないに等しいが、人間の身体は動物のように期間を決めて発情しないと聞いた。

 常に行為ができる状態なのだから。あれ……? なんだったら常に発情期とも言えるのでは……?


「それは大変だわ。あなたくらいの年齢になると、私たちは薬を飲んだり、危険な時期は外に出ない様にしたり、気を遣うようになるの。危険な目に遭ってしまうかもしれないから、ちゃんとした知識をつけるべきよ、メーラ」

「は、はい……あの、ところで人間にも発情期ってあるのでしょうか……」

「「「……」」」

 

 私の質問に三人は固まって、しばしの沈黙。レーヌ様が一口紅茶を飲むと、こほんと咳払いをした。


「最近、身体が火照ったり、胸がどきどきすることは?」

「……ありません」

「異性を見てそわそわしたり、触れたい、触れられたいと思うことは?」

「……ありません」

「匂いに敏感になったり、こう、何というか、せ、性欲が高まったりとか……」

「あ、ありません」

「そう……」


 問診のような質問が続いたが、どれも心当たりはなかった。いや、異性に限らず、獣人の皆さんの耳やしっぽには触れたいとは常々思っているが……

 レーヌ様はほんのり赤くなった頬を冷ますように手を添えて、ふうっと息を吐いた。


「私たち獣人は大人になると、発情するものがほとんどなの。それは季節であったり、前触れなく突然であったり、もちろん恋をすると頻度が高くなったりするわ」

「その状態で殿方に会ったりすると、予期せず誘惑してしまったりするのです」

「ゆ、誘惑!?」

「相性の良い動物を先祖持つ場合や、こちらに好意のある場合は強く惹きつけます。原因でよく聞くのは匂いですね」


 アーヤ様の言った「誘惑」という言葉に思い当たることがあった。最近襲われ続けているという現状。私が何もしていなくても、近づいただけで目つきが変わってしまう、あの状態。


「先ほどの症状には思い当たるものがなかったのですが、ゆ、誘惑については少し、心当たりが……」

「え!?」

「もう危険な目に!?」

 

 ガタンと椅子が音を立てる。レーヌ様とシャルロット様が立ち上がって私に駆け寄ってくる。

 

「あ、いえ、どれも未遂ですし、無事なのですが……会う男性の目が、その、ぎらついてて……」

「あらあらあら、なんてことなの。人間の発情についてはごめんなさい。私も良く知らないの。今度母にも聞いてみるわ。それよりも今そのようなことが起きているのが問題よ」

「本当に、無事ですの? 恐ろしい目にあったのではなくって?」


 レーヌ様が私を抱きしめて、シャルロット様はそわそわと私の周りを歩き回る。

 

「同性では発情の匂いを感じませんし。ラスを呼びますか?」

「……確かに、ラスはアーヤにしか興味がないし」

「それに彼の種族的に女性の許可がないとことに及べませんので」


 アーヤ様の言葉に、やはりラスとはあの案内してくれたハイエナ男子で間違いないと確信した。

 皆に心配してもらって大変申し訳ないと思いつつ、もしかしたらここで原因がわかり、解決策が見出せるのではと期待せずにはいられない。



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