赤い扉の向こう側 【夏のホラー2021】
夏の陽射しが容赦なくアスファルトに降り注ぐ歩道を隼は歩いていた。
時折り頬を撫でる熱風は不快でしかない。
額からは絶え間なく汗が噴き出しているが、それを気にしている余裕がない。
何故なら、一歩でも遠くへ逃れたいという恐怖心が隼の体を突き動かしているのだ。
「あの扉は開けてはいけなかった。それは小学生の頃から知っていたはずなのに……」
後悔してもしきれないが、今はとにかくあの扉から逃れたい。
隼の真っ赤な手は己の血ではない。
繊細な指先から水滴の様に滴る血が漆黒のアスファルトに点々と染み跡を残している。
「かくれんぼしよう」
あの無邪気な男の子の声が耳から離れない。
昨夜、小学校時代の友人達と廃校になった小学校へ忍び込み廃墟肝試しを実行したのだった。
高校生となった隼達は小学校時代の学校の怪談として噂があった“赤い扉”が実在するのかを検証することにしたのだ。
赤い扉は神出鬼没に現れる。
昔、小学生達が夜の校舎でかくれんぼをして遊んだ。
その中の一人の男の子が神隠しにあい、未だに遺体も発見されていない。
その頃から校舎でかくれんぼをすると生徒が行方不明になる事件が続いた。
「赤い扉を開けて中に入ったのを見た」
一緒にかくれんぼをしていた生徒がそう証言したが、校舎には赤い扉など何処にもないのである。
学校側の対応としては校舎でかくれんぼを禁止するといった不可解なものであった。
それを不服に思った父母達は、校舎でかくれんぼを行なった。
結果的に男性が一人行方不明となった。
廊下には男性の持ち物であるカメラと右手の人差し指が残されていた。
後日、カメラのフィルムを現像をすると写真には赤い扉が写っていた物があった。
当時それはニュースにもなり新聞や雑誌の紙面にも取り上げられ住民を恐怖のどん底へと叩き落とした。
それからというもの、この事は禁句という暗黙の了解がなされた。
しかし、この手の話は語り継がれ誰もが知っている恐怖話となっている。
隼達も小学生時代は半信半疑でありながらも、かくれんぼは校舎で決してしなかった。
だが、今は高校生となっているし子供の頃の都市伝説みたいな噂話に恐怖することはないと思っていたのだ。
生徒数が減って近くの小学校と併合することになって廃校になったこの校舎は餓えていた。
久々の血肉を貪欲に求めることに固執していた。
そこへ隼達が現れた。
新鮮な血肉が自ら檻の中へと飛び込んできたことに、赤い扉の向こう側の住人は歓喜した。
黄色い山羊の目をした住人は無邪気で幼い子供の声で囁きかけた。
「かくれんぼしよう」