適齢期
私は所謂「深窓の令嬢」と呼ばれる存在でした。
生まれた時から沢山の使用人達に傅かれ、
「お嬢様」
と呼ばれて育ちました。
他人には我儘と言われました。
確かに兄弟姉妹がいない分、利己的に育ってしまったかも知れません。
でも私は、その身分故に様々な人達に持て囃され、媚び諂われました。
それを当然と感じ、もっとそうして欲しいと思う自分。
誰も窘めてくれない。
私の傲慢さは年を追う毎に酷くなっていきました。
ある日、今までの振舞が全く通用しない時が訪れました。
あまりにも突然過ぎる父の会社の倒産。
何も聞かされていなかった私にとって、まさに「寝耳に水」でした。
父は自殺し、母は失踪しました。
何不自由なく生活して来た私にとって、一瞬にして漆黒の闇に突き落とされた心境でした。
でも私は死を選んだり、姿をくらませたりはしませんでした。
1つだけ私の性格で良い所があるとすれば、それは「絶対に諦めない」所だと思います。
私は懸命に生きる術を探しました。
今まで私に阿っていた人達が、仕返しとばかりに意地悪をして来た事もありました。
それでも私は負けませんでした。
何時か必ず見返してみせる。
そう心に誓い、日々を送りました。
そうした生活をしていた私にも、遂にその日が訪れました。
「適齢期」です。
まだ早い。
そう思っていました。
でも人それぞれ違うモノですから、仕方のない事かも知れません。
私は震える手で市役所からの通知を開き、読みました。
「貴女の今までの生活データから試算した結果、貴女の死亡適齢期は今年の11月3日と決定致しました事をお知らせします」
その日は私の60歳の誕生日でした。