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悪英雄  作者: 八月十五
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第六章 洗脳

 小さい頃からトモグイには、正義の味方に対して強い憧れがあった。

 幼稚園や小学生の頃ならまだわかるが、それは中学生、高校生になっても変わらなかった。

 結局その憧れに身を任せるまま、高校卒業後は公務員試験を受け、警察学校へ入った。

 警察学校でもトモグイはそれなりの成績を残し、将来を有望視される一人として正式に警察官になった。

 だが、そこからが地獄の始まりだった。

 それからトモグイが見たものは人間の醜さに他ならない。

 罪を認めようとせず、しらばっくれる加害者。

 加害者からできるだけ多く金を搾り取ろうとする被害者。

 他の警察官の汚職。

 点数稼ぎにだけ全力でかかる上司。

 トモグイが警察官を辞めようか悩んでいた時、トモグイに転機が訪れる。

連続殺人鬼メイカー「センノウ」を捕まえたのだ。

 だが、誰一人としてセンノウと関わろうとはしなかった。

 センノウはその名の通り、一般人を洗脳して連続殺人鬼にしてしまうと恐れられていたのだ。

 結果的に、捕まえたトモグイが話を聞くことになった。

「君は、現状に満足していないんじゃないかい?」

 センノウは開口一番にそう言った。

トモグイのことを何も知らない筈なのに、トモグイの心情をピタリと当てて見せたのだ。

 もちろん、捕まる前に情報を集めていた可能性はある。

 だが、新人警察官であるトモグイの情報なんてかき集めてもそうそう出てはこない。

「何故そう思う?」

 トモグイは興味がわいて聞き返した。

「君の目が幸せそうじゃないからさ」

 センノウは心理カウンセラーを職業にしていた。

心の傷ついた者の隙間に入り込み、信頼を勝ち取り、人殺しに仕立て上げてしまうのだ。

 逆に言えば、心が健康なもの、心が強い者は人殺しにならないが、心というのは常に動き、変化し続ける。心の弱いときがない人間など、一人もいなかった。

「俺は別に幸せになりたいわけじゃない」

「……何かやらなければならないことがあるみたいだね?」

「正義の味方になりたいんだ」

 気付けば、トモグイは自分のことをペラペラと話してしまっていた。

「正義の味方になるのは難しいよね。なら、逆転の発想はどうだろう」

「逆転の発想?」

「正義の味方ではなく、悪の敵になるっていうのは」

 確かにそれでも結果的には一緒だ。

「悪の敵になるにはどうすればいいんだ?」

「簡単なことさ。悪人を殺して回ればいい」

 確かに、それなら悪人もトモグイのことを恐れるだろう。だが、それは連続殺人鬼になるということだ。

「私から言えるのはここまでだ。このままでは正義の味方になれないのは明白。行動を起こすかどうかは君が決めるべきだ」

 口ではそう言ったが、センノウには分かっていた。トモグイが必ず行動を起こすと。

 その日の夜。覚悟を決めたトモグイはもう一度センノウと面会した。

「やあ、どうしたんだい?」

「……覚悟を決めたよ」

 センノウはトモグイにバレないように笑みを浮かべる。

「そうか。なら、私が君を手伝おう。ここから出してくれ」

 トモグイはゆっくりとセンノウの頭に銃を向け、照準を合わせる。

「何の真似だい?」

「お前に操られるかもしれないからな。ここからは俺のやり方でやる」

「なら、せめてアドバイス代替わりに見逃してはくれないかな?」

 トモグイは発砲した。

「記念すべき一人目だ。精々誇れ、センノウ」

 騒ぎにならないうちに素早く拘置所を出る。

 こうして、連続殺人鬼を殺す連続殺人鬼、トモグイは誕生した。


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