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リスクとルール
奥歯を噛んだ。
お互い、無意味だとわかっているのに、こんな戦いを続けねばならないのか。
「……牢屋、ですか。しかし…………それが処刑台だったなら、不可能ではないのでは?」
「っ」
「!?」
緊張が走った。
私はあえてタブーに自分から足を突っ込んだ自覚はあった。
クリシュナの気持ちはわかっている……"今の時点"なら。
確かに自分や兄弟を殺そうとした相手だ。
それでも、父親だ。
命までは奪いたくはないだろう。
しかし、場合によっては……例えば、圧政を強いられた国民の感情を抑えるために、処刑台に送らねばならない事もあるだろう。
もちろん、それは可能な限り避けたいのがクリシュナの心情だが、確かに選択肢にはある。
だから、それを提示すればヒッチコックが折れる可能性もあるのでは、と考えた。
「ふ。その時はその時です」
「……諦めるんですか?」
「そういったリスクを含めた前金です。
回収不能になったとしたら、それは痛手ですが、それで契約を反故には出来ませんよ。
今は、契約が生きているのだから」




