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兄の嘆き
一瞬、躊躇を見せたが、クリシュナは兜の留め具を外すと、兜を引き上げた。
「!これは……!」
「っ……!」
「!?」
「……」
クリシュナは兜を床に叩きつけた。
「そんな気そのものはしていた……しかし、それでも、信じていたんだ……
何故だ、ノイルっ!何故、お前がっ……?!」
弟の姿を見て、嘆くクリシュナを背に私は奥のヤンカム王を観察していた。
ああいう表情をなんと言ったか……
確か、"能面"のような表情、だったかーー
「っ……なんとか言えよ、ノイルっ!」
ノイル王子はただ、虚空を見つめるだけだった。
「……待ってください。
首を斬られるかどうかの段階で騒ぎたてることもなかった。
最悪、その場で自身の正体を明かせば、その場で斬首なんてことも避けられたのに、それをしなかった……ノイル王子はその時点で放心状態にあったのでしょう」
「放心状態って……だったら、水でもぶっかければ目を覚ますだろ……!」
クリシュナは無事なテーブルにあった水の瓶を取ろうとした。
「落ち着いて下さい」




