942/1085
まずそこにない
持ってきた物資を全て渡し終えても、列は残っていた。
クリシュナはその人々の列に対して、もう何もないことを告げ、自ら頭を下げた。
人々が、まばらに散っていく中で、私はクリシュナに声をかけた。
「お疲れ様です」
私は即席で魔法で作った氷のグラスに魔法で生成した水を注いで渡した。
「ああ、ありがとう……だけど、それはミックに渡してくれ」
「え?」
先程の子供がすぐ近くでこちらを見ていた。
街の中とは言え、ここは砂漠の真ん中。
水なんてものは、いくらでも必要だ。
些か不用意だったかもしれない。
「持てる?凍傷にならないよう気をつけて」
と言ってものの、ミックは凍傷が何かわかっていないようだった。
夜は寒くなるとは言え、砂漠で凍傷などそうそう起こるものではない。
しかし、子供の手で氷を直に掴むのはよろしくない。
「ああ……だったら、これがある」
と、クリシュナは紙ナプキンを取り出した。
直に持つよりマシだろう。
ミックは紙ナプキンを巻いて、グラスを持った。




