941/1085
聖人
クリシュナはラクダをその場に停めると、近くにいた子供に声をかけた。
「やぁ、ミック。僕が来たとみんなに伝えてくれ」
子供は頷くと、駆けだした。
それを見送ると、クリシュナは荷台の荷物を下しだした。
私もそれに倣い、二人で全ての荷物を下すと、いつの間にか私達の前に長蛇の列が出来ていた。
「うん、OKだ。順番に取りに来てくれ」
――
物資が尽きるまで、一人一人にクリシュナはパンと日用雑貨を手渡していった。
途中、一度受け取った者が並び直したりした際には、クリシュナはすぐに気付き、
誰かの代理だとか、特別な事情でないなら、なるべく多くの人に配るために、
物資が余るまで渡せないと、説明した。
その出来事で私が感じたのは、クリシュナは恐らく一人一人の顔を覚えているということだった。
私も多少手伝ったものの、クリシュナは自分で手渡すことにこだわっていた。
一言二言気遣いの言葉を掛けている。
この場にいるほとんどの人のことを理解していることから、
この活動は昨日今日始まったことではないことが伺えた。




