彼のものの行方
宿に戻ると店主は食事の仕込みをしていた。
陽が傾き始め、営業時間ではあるが、まだ誰もお客さんはいなかった。
都合はよかった。
店主の手を止めることに変わりはないが、それでも接客対応に追われているよりはマシだ。
「あの、ちょっといいですか?」
「あ、お帰りなさいませ。何用でしょうか?」
「昨日話していた。”狼”退治の件ですけど……」
「ああ、それなら、今日、傭兵が到着したそうですよ。早ければ今日中に解決するかも知れませんね」
それなら、こちらとしても、いいタイミングだったと言えよう。
「あの、私も協力したいんです」
「ええっ!?お客さんが!?」
店主は私が言ったことに驚いたのだろう。
自分でも、そう手練れらしい見た目はしていないと自覚はしている。
でも、今はそんな弱気なことを言ってられない。
「こう見えて、腕に覚えはあるんです」
「……まぁ、お三人で他に護衛も付けずに旅をされてるなら、そうなのかも知れませんね」
確かにそういう考えかたも出来るだろう。
「ですが、報酬を何も用意出来ないんですよ」
「いえ、報酬はいりません。
その……興味本位という訳ではないですが、”狼”のことが気になるんです」
「そうですか……しかし、私個人の判断ではどうしようもないんですよ」
「では、誰に聞けばいいですか?」
「この場合……直接、傭兵に聞いてもらう他ないと思いますが」
「傭兵さんは、どこにいらっしゃるんですか?」
「さぁ……私も今日着いた、という話だけを聞いただけなので、滞在先までは……」
と言うことは少なくとも、この宿ではないということだ。
「分かりました。この街の他の宿の場所を教えて下さい」
「本気ですか……?」
「もちろん、です」




