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それが兄弟の会話か?
ふぅ……と、クリシュナは大きく息を吐き出すと、意を決して扉まで歩き、開けた。
私はその後を着いていくと、先程の弟王子が護衛と共に待ち構えるようにして立っていた。
「ノイル」
「兄上、お勤めご苦労様です」
ノイル王子は形式ばって、胸を抑えるようにして頭を下げた。
「うむ、ノイルも息災だったか?」
兄弟だというのに白々しい喋り方だと思った。
クリシュナはノイル王子の方を見たまま、奥のソファに座る。
私は控えるようにして、その後ろに立った。
それを見て、ノイル王子も向かい側に座る。
「ええ、兄上こそ大変な目にあったと聞きましたが」
それを彼が言うのか。
「ああ、護衛とお付きの者達――のおかげでどうにかというところだ」
一瞬、クリシュナは私に意識を向けていた。
流石に切り札だという私の話はする訳にはいかないのだろう。
「そうですか、それはよかった。
……ところで、彼女は?」
ノイル王子が此方を見る。
目を合わせると笑顔が張りついているようだった。
心から笑ってはいない……まるで蛇のようだと思った。




