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孤独の王
クリシュナは必死に言葉を選んでいるようだった。
「……命を、狙われました」
「ふん……それがなんだというのだ?」
「……!」
こんな王が、父が、人間がいるのか。
血を分けた我が子が命の危険にさらされたことを、そんな風に言うのか。
ましてや、自分達だけでなく、国全体のことにもつながってくるというのに……
「……いえ」
クリシュナには諦観といった表情がこびりついていた。
「クリシュナ、キサマが生きようが死のうがどうでもいい。
朕の後釜になる者は、強者だけだ。
キサマはただ単に近い位置にいるだけに過ぎん」
「心得ています。
ですが、陛下……いえ、父上もどうか、お気をつけて」
「ふん……」
王は鼻を鳴らすと追い払うように、手をしっしっと振った。
クリシュナはそれを見て、頭を下げて出ていく。
私もそれに続こうとしたところだった。
「覚えておけ、クリシュナ。
王とは孤独なものよ。周りは敵だと思い続けねばならぬ」
思わぬ言葉だった。
それは忠告なのか、或いはただの独白か、もしくは助けを求める叫びか?
それをはかることも出来ないまま、クリシュナと共に王の間を後にした。




