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王子の夜
「視察そのものは難なく終わったよ。
問題はその帰り道だ」
「そこで襲われたんですね?」
クリシュナは大きく頷いた。
「あれは暗い夜だった。
砂漠を渡っていたが、それ以上の進行は諦め、野営をしていたんだ」
こんな王子でも野営をするのか、
とも思ったけど、一日で戻ってこれないのなら、それも仕方がないことだろう。
「……気付いた時には遅かった
我々は取り囲まれていたんだ、暗殺者どもに」
「なるほど」
王族の護衛なのだから、腕は立つはずだが、四方八方から取り囲まれてはどうしようもないだろう。
取り囲むほどなのだから、数の上でもクリシュナ側は不利だったはずだ。
「これでも、剣の腕にはそれなりに自信はあった。
しかし、あの状況……明らかに僕が標的だった。
その中で前に出て、戦うことは出来なかったよ」
「えっ……あ、ああ、そうなんですか。
失礼、意外だったもので」
「ははは、あそこで僕が前に出るのは、勇猛ではなく蛮勇だったよ」
「……」
いや、そういう意味でなく、剣に自信があることが意外だと言ったんだけど……




