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忘れるはずがない顔
王宮の門前、そこまで到達していた。
門番らしき男が門の左右に立って、こちらを訝し気に見ていた。
「……ふ」
クリシュナは自嘲のような笑みを浮かべると、ラクダから降りた。
外套を脱ぎ捨てるように、ラクダに掛けると門番の前にまで歩みよると声をかけた。
「どうした、顔を忘れたか?僕だ」
すると、門番の顔はみるみる青ざめていったかと思うと、叫んだ。
「く、クリシュナ王子っ!?」
門番の声は裏返っていた。
しかし、王子だって……?
「なんだ、僕が家に帰ってくるのが、そんなにおかしいかね?」
「い、いえ、しかし何故、そのような……」
門番は私……と言うより、ラクダを見ていた。
王子という割にラクダ一頭で帰ってくるのがみすぼらしいということか。
いや、だとしたら、何故王子があんな砂漠の真ん中で行き倒れていたんだ?
「ふむ……偽物だと疑っているのかね?
なら、そうだな、サムスでも呼んできたまえ、彼ならわかるだろう?」
「わ、わかりましたっ!」
そう言うと、門番はもう一人の門番に、この場を任せると、門のくぐり戸から、中に入っていった。




