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スロースピード
クリシュナに誘導されるまま、ラクダのコブの前に座らされた。
そして、クリシュナは手綱を持ったまま、後ろに……
回ろうとしたところを手で制した。
「やめてください、口説くんじゃないんですよね?」
仮にそのまま後ろに座られたら、手綱で拘束されるように……後ろから抱き着かれるのに近い形になっていた。
「あっ……い、いや、すまない。普段のクセでついやってしまったんだ」
「……」
それはそれで信用できない。
つまりは、女性には誰にもそんなことをしてるってことじゃないか。
「……ハァ。後ろに座りますね」
「あ、ああ……」
クリシュナが前に、私が後ろに座ると、ラクダはゆっくりと歩き出した。
「ここまで来れば、もうすぐだ。
ゆっくりと行こう」
「はぁ、そうですか」
ラクダは街の中心の方へと歩みを進めていた。
宣言通り、ゆっくりだな、と思った。
「ラクダって、こんなスピードなんですね」
「いや、もっと速くも走れるよ。
だけど、街中だからね」
ああ、それもそうか。




