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前言撤回
「外套の中でおとなしくしてなさい。温度調節はしてあげるから」
「しゃーないかぁ……ずっとじっとしておくのって苦手なんやけどなぁ……」
砂漠で贅沢なことを言う。
命の危険を考えれば、破格の条件だろう。
こういうところ、蝶の割に俗世に塗れた人間っぽく思える。
野生動物ならば、危険が去るまでひたすら耐え忍ぶなんてこともあるだろうに……
まぁ、これを野生動物だとか、本来の虫と同じように考えるのは無理があるのかもしれないけど……
「一日二日くらい我慢して、退屈に殺されるわけじゃないんだから」
…………
……二日後。
「……退屈に殺されそう」
「あっ、言った!言ってもうたーっ!」
「仕方ないでしょ、退屈なのは事実なんだから」
砂漠は見渡す限り砂しかない。
いや、厳密には岩だとか、たまにサボテンだとか見つからないわけではない。
ただ、とりあえず、砂ばかりで何もないのだ。
幸い、話し相手として蝶がいたから幾分かマシだったものの。
ただ、ひたすら『ギンギ』を目指すしかない私には、他に何も出来ないというのは想定外に苦痛だった。




