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素顔
「一太刀だ」
「……!」
「惰性で打ちあっても、得られるものは少ないよ。
お互い、渾身の一振りで決めよう」
「そう……ですか」
かえって、覚悟が決まった。
タイミングを伺うまでもなく、今この時に賭けることが出来る。
「『偽――』」
「『閃沙――』」
これはあの時の再現だ。
アミテさんを見て、暴走したちーちゃんを止めるため、互いの剣をぶつけあおうとした。
あの時はシンシアさんに止められた。
だけど、今度は止める者はいない。
チヒロも暴走していないし、雰囲気も違う。
私も『改』や踊る剣技との組み合わせという発展系を掴んだ。
再現でありながら、あの時と同じではない。
だから、あの時ぶつかっていたら、どうだったのか?その解答には成り得ない。
だけど――
だからこそ――
ここで、現時点での位置が決まる。
剣士として、私が上かチヒロが上か。
拘りがないと言えば、嘘になる。
ただ、負けたくない。
勝ちたい、ただ、ひたすらに。
あえて、口にしたことはなかった。
でも、自分の中の予感がこうして剣を向け合うことではっきりと確信に変わっていく。
チヒロは私の好敵手になると――




