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未使用の理由
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陽は落ち、月が昇っていた。
宿に戻ると、私は屋根の上で座禅を組んでいた。
月を見るでもなく、私は目を閉じて考えていた。
ショウ兄さんとの戦いの中、私はあれだけせめあぐねていたのに、『偽・無形の型・改』を放てづにいた。
放ったものは踊る剣技に乗せたものを含め、全て改ではない通常の『偽・無形の型』だ。
何故使わなかったか……私の中で理由は明白だった。
よくある話だ。使わなかったのではなく、使えなかったのだ。
『改』を使うためには、後ろ手で剣を持たなければならない。
それだけと言えば、それだけだけど、シュウ兄さん相手にそれだけのことが出来なかった。
格上……それもとびきりの相手にそんな不自然な構えを取ることが出来なかった。
そもそも、私にとって『改』のためだけの構えだ。
何かがあった時にとっさに他の剣技を使うことが出来ない。
剣を防ぐことさえも、シュウ兄さん相手には致命的なロスがある。
故に、構えが取れない以上、使うことが出来なかったのだ。




