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そこにないが、ある
シンシアさんは丼鉢に叩きつけるように箸を置いた。
丼の中はスープだけだった。
「言ったじゃん、時間的に野菜ベースでしか無理だって」
「そ、そんな事を言うつもりはありませんわ!」
「そう?じゃあ、何が気に入らないの?」
シンシアさんがらしくなく、ふへぇ、と間の抜けたため息を吐いた。
「逆ですわ。
これはまごうことなく、醤油ラーメンですわ。
無意識ながら、長年追い求めていたものです。野菜ベースもアタシは好きだし……」
「じゃあ、なんで?」
「これは完璧なまでに、”醤油”ラーメンなのですわ!」
「はい?」
「ですから、どうして……どうやって、こんなものが作れたのですかっ!」
「どうって、そりゃあ、イチから順に……」
「アタシの知る限り、醤油なんてこの世界にないんだよっ!
せいぜいお刺身に使えるような風味が似た醤油風ソースくらいが関の山でしたわ……
”それ”では、こんな味には出来るとは思いません。どうやって、醤油を用意したんですか!?」




