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無知とブレーン
「結構前のことやし、曖昧ではあるんやけど、妖精がおったやろ?
その時は暴走しなかったんやし……」
「ま、待って!」
思わず私は制止をかけた。
「なんや、クリスはん?」
「いや、なんでもなにも……どうして、貴女がそのことを知ってるの?」
「え?」
「確かに、海を渡る前、消えていない妖精と会ったことはある……
でも、そのことを貴女が知ってるのはおかしい!」
「はぁ……」
蝶は何を言ってるのか、わかりかねると言った表情で首筋をぽりぽりと掻いた。
「おかしいなんて言われても、知ってるからしゃーないやろ?」
「知るはずのないことを知ってるのはどうしてってこと!
あの時は時期を見ても、セレナは結晶化した直後だったし、
それを考えれば、蝶は卵だったか、
そもそも、まだ産み付けられもしてなかったくらいの時期なの!」
「いや……せやからね?
そんなこと言われても、わたしの頭では理解出来へんのよ。
ガワはこんなナリでも所詮は蝶やし、わたしの考える力はセレナはんのものやし」
「だからっ!」
埒が開かず、私は”結晶”の前に詰め寄った。
「貴方に聞いてるのよ、セレナっ!」




