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正常な不正常
――――――
【バックアップは正常に完了しました】
「……」
チヒロは頭を抱えて丸まる。
「…………あ、あれが……ワタシ……?」
人格の形成するのは元となる性格と過去の経験、その蓄積だ。
記憶を失い、目覚めてからクリス達と旅をしてきたチヒロと、
記憶を失う以前……勇者として戦ってきたチヒロは、そういう意味では同一人物でありながら、
別人格と言えた。
そこにある違いは過去の経験だけだ。
ただ、それだけがチヒロの精神に異常をきたす――
「うう……ぐぅっ……」
今の自分と過去の自分……その違いがギャップが違和感が、チヒロ自身を苦しめる。
確かにあった自分の過去。
だが、それを受け入れることがチヒロには出来ない。
「魔王だから……でも、何故……残虐である必要は……いや、あれは必要な殺意……だけど……」
思えば、アニスが母を庇った行動を見たこと……それがトリガーだった。
あれが、ロストした記憶を呼び起こすためのトリガーとなっていた。
そこにあるの意味はなにか……それは……
「だけど……ワタシは……勇者だ。勇者として……目覚めなければ……ならない」




