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勇者の定義 30
「――――”喰らい尽くせ”」
それは指示だった。
それに呼応した太刀が、光を発すると、泡がはじけ飛ぶように、マオは消し飛んだ。
残ったのは、ささくれのように複数の刃が開いた太刀のみ。
そして、マオだったものが完全に消え去ると、喰らい終えた口を閉じるように、開いた刃が閉じた。
チヒロはまるでマオの墓標のように突き立てられた、太刀を無造作に引き抜いた。
そして、つまらなそうに呟いた。
「……終わりか」
わかっていた。
チヒロはここまでわかっていたのだ。
演算を終了したその時から――
全ての事象には法則がある――
ランダムなんて言うのはその法則を見いだせず、厳密には存在しないのだとしたら――
全ての法則さえ理解していれば、計算によって未来視さえ可能となる。
チヒロは戦闘においてそれに近い能力を持っている。
”守護者”と一体化したことにより、人智の及ばないところから習得した、まさに神の力、その一部……
とはいえ、チヒロのそれは不完全。
ある程度敵の情報が必要ではあるが、
逆に言えば、そこまで戦いが至れば必勝となる……勝利が約束された力だった。




