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勇者の定義 25
「ッ……!」
ぐぐぐ、と怒りからか、マオは腕を震わせて掌を向けた。
チヒロには特に何もなかった。
待ち望んでいた自身の破滅……とは言え、チヒロにも生物として、
死への畏怖・嫌悪はシステムのように組み込まれている。
思考の中の願望と本能の中の嫌悪。
それが二律背反して、チヒロの中でプラスマイナスゼロ……無へと至った。
チヒロにあったのはただ一つ、目を瞑るか開けておくかということだけ。
ただ、それさえもどうでもよくなり、結局は現状維持。
消極的選択により、目を開けたまま、その時を待っていた。
しかし、一向に事態は進まなかった。
マオは手を震わせたまま、最後の”引き金”を引けずにいたのだ。
「なにしてんの?」
「っ……!」
「勿体ぶってないで、早くしたら?拘束が外れるんだけど」
肉体と精神は必ずしも合致しない。
ましてや、チヒロに関してはそういう”システム”になっている。
チヒロの思考に関係なく、肉体は抵抗する。
チヒロの腕は、魔王?を振りほどこうと必死に引っ張っていた。




