勇者の定義 17
「……」
チヒロは落胆していた。
胸を貫かれた時、確実に自分は死んだと思っていた。
しかし――なんだ、これは?
不老であっても、不死ではないんじゃなかったのではないのか?
いや、そもそも、心臓が胸にないとはどういうことか。
チヒロは一体――
「――なんだ」
その言葉のニュアンスはどこにあるのか。
一瞬、だけど、永遠のような張り詰めた空気がマオとチヒロ自身をも縛る。
マオはその空気を打ち破るため、唾を飲み、意を決して叫んだ。
「コチラのセリフだっ!ナニモノだ、勇者っ!」
文脈は滅茶苦茶だが、ニュアンスこそ伝わった。
チヒロはゆっくり立ち上がると、マオを見ながら、口元だけで笑ってみせた。
「そんなもの、初めから決まっている。
お前たちの”死”さ」
今度はマオの背にぞくりとしたものがつたった。
そして、同時に地面を蹴り、その場を離れようと飛んだ。
翼には飛行能力がある、それを使ってマオは逃げ出したのだ。
マオの感情は全て置き換わっていた。
仇だとか、そんな感情さえも……
父がそうしようとしていたように、初めから逃げ出せばよかった。
アレは初めから相手にしてはいけないモノだったのだ。




