はじめてのお掃除
おまけの図解はペイントで適当に書いたやつです
「……警告はしましたよ?」
大人数で固まっているのなら範囲の広い魔法で一網打尽にすればいい。
私は両手に込めた魔法を解き放った。
「『ジャイロエアスピット』!」
解き放たれた魔法は風の弾丸のようにジャイロ回転をしながら肥大化し、
前方の野盗達を飲み込み、薙ぎ払った。
「ぎゃあああああああっ!」
「ま、魔法!?しかも、こんな……」
「――戦闘中に余所見する暇があるんですか?」
「!?――ぺぎょっ!!」
後方の野盗Aの顎を拳で打ち抜く。
野盗Aは宙に舞うと、受け身をとることも出来ずに地面に叩きつけられた。
「ば、化け物だぁーっ!!」
残りのB~Jが逃げ出した。
しかし、犯罪者をこのまま見逃す訳にはいかない。
私は剣を抜いて、振り絞るように構えた。
野盗達は逃走をはかったことにより、ほぼ直線上に並んでいる形だ。
それならば、丁度いい技がある。
「――『隼剣・彗星連撃』」
私は地を蹴ると同時に野盗Bの背後へと迫り、背後から剣を見舞う。
「ぐぎょっ!?」
そして、反動を利用し、今度は野盗Cの背後へと――
「たらばっ!!」
後はこれを前方に野盗がいなくなるまで続ければいい。
剣筋自体は単純なものだが、背を向け、逃走している相手にはそれで充分だった。
「らだっ!」
「ろくなっ!?」
「もっっ!!」
「んっっじ」
「やねっ!?」
「えっ!!」
「あがぁっ!!?」
最後の一人を倒し、剣を鞘に納めた。
「……本当に一人で片付けちまった」
「イワノフさん、お怪我はないですか?」
「あ、ああ。お嬢ちゃんこそ大丈夫かい?」
「結構派手にはやりましたが、命までは奪ってません」
「そういうことじゃ……いや、いい」
「この人達、憲兵さんに引き渡さないといけませんね」
「そうしたいのはやまやまだが、こんな森の奥まで連れてくるのは大変だろう」
「そうですね……あ、じゃあ、長めのロープありますか?」
「あるにはあるが……」
「じゃあ、縛って荷台に乗せましょう。スペースはまだありましたよね」
「…………それ、マジで言ってるの?」
……
その後は何もなく、野盗達を憲兵に引き渡して、イワノフさんのお店にリアカーを届けた。
「お嬢ちゃん、今日は色々ありがとな」
イワノフさんは手間賃として1万ウェンをくれた。
「こんなにいただいていいんですか!?」
「むしろ、お嬢ちゃんの働きを考えると安いくらいだと思うが……」
「いやぁ……別に大したことはしてませんよ?」
「お嬢ちゃんの”大したこと”ってなんなんだろうな?」
「え?」
「いや、なんでもない。暫くはこの街にいるんだろ?」
「ええ、アル……スフォードさんの情報収集をしたいと思うので」
「そうか、まぁ、果物屋に出来そうなことがあったら、なんでも頼ってくれよ」
「はい、ありがとうございます!」
「こちらこそ、ありがとよ!」
イワノフさんとはそこで分かれた。
流石にいきなり宿を世話してもらうのは気が引けたからだ。
……
街のどこかの出来事――
「おい、こいつどうする?」
「ああ、どうすっかなぁ……」
「ちっ……前の飼い主が死んじまって、回収依頼が来た時はもう一度売れると思ったのによ」
「病気持ち、しかも疫病とはな、売り物になんねぇ」
「なんでも、前の飼い主がいたぶるのが趣味でよ。
そうやって、遊んでる内に免疫力が落ちて、
劣悪な環境にいたせいで疫病にかかっちまったってことだ」
「そうじゃなきゃ、回収依頼もこねぇか……くっそ、これじゃ自分らで使うことも出来ねえじゃねえか」
「仕方ないから、捨てるか」
「どこに?」
「森の奥に捨てりゃあ、死体が見つかっても遭難者だと思うだろ」
「そりゃあ、いい。そうするか」