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明確になった立場
「ショウ兄さんっ!」
前方にその姿を捉え、叫ぶ。
ショウ兄さんはちらりとこちらを見るがすぐに前へ、前へと逃げていく。
元から逃げる立場と追う立場だけど、その立場がはっきりとした。
ショウ兄さんがナイフを失ったことで飛び道具がなくなった。
元より、一本しか使えないナイフを投げては回収する戦法自体異様なのだけど、
その唯一のナイフが私の手に渡ったことで、ショウ兄さんは攻め手の軸を失った。
加えて、不意打ちの種を明かしたことで、
対処可能にしてしまった。
本来逃げる立場のショウ兄さんにおいて、確実に当たる攻撃だからこそ意味のある行動だ。
不意打ちを捌かれた時、それは同時に私がショウ兄さんを捕まえるチャンスになりかねない。
故に、ショウ兄さんは今、攻撃の手段がない。
厳密には、魔法、封じた他の武器などがある以上、あえてしない、だけど……
ショウ兄さんはこの場面で魔法を打ってこないという確信があった。
私と違い、ショウ兄さんにとっては何がなんでも勝ちたいという戦いではない。
むしろ……その本心は負けたがっていると言っていい。




