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手加減の理由
「何がだ?」
「とぼけないでください。いくらでも、ショウ兄さんには逃げるタイミングがありました。
私がショウ兄さんを見失った時点で、この勝負、ショウ兄さんの勝ちでしょう?」
すると、ショウ兄さんは何度目かのため息をついた。
「……なるほど、そうして欲しかったと?」
「だから、ごまかさないでください!」
「やはり、馬鹿がつくほど、正直者だよ、お前は」
「え……?」
「逆に言えば、こうだろう?
この程度のハンデでは、勝負にならない」
「っ……!」
「勝負といったのは、そういうテイの話だ。
元から、まともに勝負なんて考えていない」
「な、なら、なんなんです、これは!」
「テストだよ」
「……!」
「試しているんだよ、改善点を指摘すれば、修正出来るのか――
そうやっていけば、おれを捕まえることが出来るのか、を」
「なぜ、そんな回りくどい真似を……」
「言ったろ、これでは妹をいじめる兄だ。
とは言え、無罪放免という訳にもいかない。
だから、勝負という形が一番いい落としどころだった。
……こうして話してしまった以上、もはや意味のないものだがな」




