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土俵際
シンシアさんが何も言わないことを確認し、ショウ兄さんはお金の入った箱に触れようとした。
「ま、待って、下さいっ!」
私は気がつくとショウ兄さんに縋りついていた。
「それでも……それでも、必要なお金なんですっ!」
「そんなこと、わかってる」
「え……」
「こんなことをやるんだ、余程金に困ってのことだろう。
だが、兄としてこんな方法を見逃す訳にはいかない。
時間がかかろうと、地道な方法があるはずだ」
「そ、それは――」
その通りだ。
だけど、急がないといけない理由がある。
「――――アル兄さんの、ため、なんです」
どこまでを言うべきか、何を言えば、理解してくれるか、それを考えた結果の言葉だった。
間違ってはいないとは言え、ずるい言葉だと思った。
「――どういうことかな。その名を口にするだけの、理由があるのか?」
ぞくり、と背中に冷たいものがつたった。
全てを話さずに、ショウ兄さんを説得できるのか――
いや、出来るかではない、やるしかない――




