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前振り
聖水と言っているが、要は消毒液だ。
といっても、私が聖魔法によるお清めを施した特別性。
ニュアンスとしては聖水でも間違いない。
ただ、発案はシンシアさんで”誰がどこで何を触ったか、なんてわかりませんから”とのことだ。
「お互いにこれに手をつけて清めてね。
毒手とか、そういう手を防ぐ意味でもね」
毒手……手に毒魔法を纏った技や、手そのものを毒漬けにして、触った相手を弱らせることを言う。
「あん?これこそ、毒や痺れ薬を入れてんじゃねぇよな?」
「アンタ、でっかい図体して疑り深いねぇ」
「ほっとけ」
「じゃあ、グリース、先に」
言われた通りに、桶に手を5秒程浸した。
私が手を引き上げると、シンシアさんは大男に再度桶を差し出した。
「ほら、先に使ったよ」
「ちっ、これでいいんだろ」
大男は面倒くさそうに手をばちゃんと聖水につけた。
「あっ、そんな乱雑にしてこぼれたらどうするのさ!」
「ふん、この一回で終わっちまうんだから、いいだろ?」
なんという前振り。
とは言え、私にはその振りをすぐには回収出来ない理由があった。




