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人の境界線
旅立ちはいつだって朝だった。
ちーちゃんを馬車に寝かせたことでいつでも出発出来るようになる。
思えば、意識不明が二人とはとんでもないパーティーだ。
とはいえ、前述の通り、早目に出発したほうがいい。
アニスやアミテさんのことは気になるが、
何度も言うように私達に出来ることはもうない。
馬の前に私とシンシアさんが立つと、見送りに二人が家に出てきた。
「いよいヨ、いかれるンですね」
アミテさんは、まともに会話が出来る程度には、”人寄り”に戻った。
若干イントネーションに違和感があるものの、意思の疎通に問題はない。
服を着れば、見た目も――背中に虫のような羽根があることを除けば、人に見える。
「アミテさん……」
ああ、そうだ、人寄りに見えるだ。
事情を知らない人間はアミテさんを化け物扱いするかも知れない。
「……身体はどうですの?」
「ええ、調子ハ戻ってきまシたよ」
「……」
口にし辛くて触れられなかった。
でも、最後まで、触れない訳にはいかないと感じた。




