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臆病な者ほど、長生きをする
シンシアさんの姿が消えた。
これで、アニスの小屋まで見つからずに向かうことが出来るだろう。
そして、私はこれで、仕掛けることが出来る――
「なんだ、消え――!?」
集落の人間と違い、分かり易くマフィアの人間はスーツを着ていた。
こんな森林で活動するに向いた服装ではないだろう。
しかも、それが仇となって、私に狙われることになるのだから――
「何か、用ですか?」
私は背後から、スーツの背広ごと肩を掴んだ。
「!???!?」
予想のしていなかったカウンターに、マフィアらしき男は硬直した。
その男は懸命だった。
抵抗の意思を見せようともせず、両手を挙げた。
背広で隠すように胸に拳銃のホルダーがあったにも関わらず、だ。
「何者……ですか……?」
背広越しの肩で充分に分かる程に彼の脈が速くなる。
なまじ場数は踏んでいたのだろう。
故に、実力差を彼は理解していた。
それはそれで、話が早い。
威圧的に出て、恐怖心を煽れば、情報を落とすだろう。
「質問をしたのは、こっちが先ですよ?」




