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簡単な算数
ちーちゃんの言葉には、経験したかのような真実味があった。
同時にアル兄さんとのいつかのやり取りを思い出した。
――
その日、アル兄さんは珍しく何かに打ちひしがれたように膝を抱えていた。
私は声を掛けるべきか迷って、恐る恐る近づいた。
「……どうしたの、アル兄さん」
「クリスか……」
私に気付いたアル兄さんは、近寄った私の髪を優しく撫でた。
「……クリス、3と50なら、どっちが大きいか分かるかい?」
突拍子のない質問に、たじろいたが、そんな簡単な問題もない。
「……50」
「うん、そうだね。その通りさ」
そう言って、アル兄さんは笑った、でおも、視線は遠くを見ているようで、私は怖くなった。
「なにがあったの?」
アル兄さんは、顔を俯かせながら、つぶやいた。
「さっき、クリスにした算数の問題と一緒さ。50と3なら、50が大きい、それを選んだだけだよ」
「本当に、それだけ?」
「ああ、そうだね」
「なら、どうして、アル兄さんはそんな顔をしてるの?」




