618/1085
アニスの悲劇
アミテさんは三日三晩苦しんだそうだ。
アニスは必死に看病し、アミテさんの指示で薬の調合もしたが、結果は周知の通りだ。
集落唯一の薬師の死。
普通に考えれば、それだけでも悲壮感が漂いそうなのに、
集落の人々はむしろ、その死を喜んでいるようだったそうだ。
あくまで、アニスの主観だったが、葬儀の際、そう感じたそうだ。
そして、追い打ちをかけるように、葬儀の最中に親子の家で火事が発生。
埋葬のために離れていた村人たちは気付かず、家は全焼。
母を失ったばかりのアニスは、ほとんど遺品もないままに住処も奪われ、
追い出されるように今の小屋に移り住むことになった……
――
その話を聞き……いや、”見”終えた私は絶句した。
この親子に一体、どんな罪があったと言うのか。
葬儀の最中の火事……図ったようなタイミングに放火だとしか感じなかった。
元々差別を受けていた中とは言え、
何故、親も家も失ったアニスを集落の人間は誰も助けようとしなかったのか。
ましてや、集落のために動いていたであろうアミテさんの死が、何故、歓迎されねばならないのか。
私は何一つとして、飲み込めずにいた。




