はじめてのお仕事 中編
リアカーを引いていたのは、中年の男性だった。
男性は薄着の衣類に麦わら帽子、肩にはタオルをかけていた。
「すみませーん」
男性は一瞬身構えて、持ち手に下げていた銃を取ろうとしたが、
私の顔を見て、思いとどまった。
「なんだい、お嬢ちゃん?このへんは野盗もうろついてるから、危険だよ」
「剣を持っているので、大丈夫です」
「剣?……ああ、お嬢ちゃん、剣士なのかい?」
「……そんなところです」
私自身、何かに特化したものがないため、剣士や魔法使いといった”役職”を名乗るに名乗れない。
「それで、何かようかい、お嬢ちゃん」
「はい。おじさんは街の人ですよね?」
「ああ、果物屋をやってるイワノフというものだ」
「私も街に向かってるんですが、路銀がなくてですね……」
「……わ、わたしはこう見えても妻一筋だっ!」
「え?」
「……えっ」
イワノフさんは恥ずかしそうに咳払いをした。
「あ、ああ、いや、なんでもない。それで、どうしたんだい」
「それで、ですね……」
「はっ!まさか、その剣でわたしを脅すつもりか!やめてくれ!わたしはしがない果物屋で……」
騒がしい人だなぁ。
「違いますよ。この荷物、街まで押すので、その分、手間賃をもらえないかと思いまして」
「あ、ああ、そうか……そうだな、少し手伝ってもらうか。じゃあ、お嬢ちゃんは後ろから押してくれるかい?」
「あ、私一人で行けますよ」
「ええ?いくら、剣士って言ったって、その細腕じゃあ無理じゃないか?」
論より証拠だと思い、リアカーを引いて見せた。
「ほら」
「か、片手で!?」
「どうですか?」
「あ、ああ……お願いします」