神速の業
互いに竹刀を構え、対峙していた。
ラン兄さんの構えにはやはり隙はない……
「行くぞ、クリス……」
「は、はいっ!」
全神経を傾け、集中する。
今の私では反撃を考える余裕はない。
今はただ、ラン兄さんの攻めを防ぐことだけを――
「これが『無形の型』だ」
「――っ!」
神速と言えるスピードで繰り出される一振り――
だが、余りにも馬鹿正直。
余りも一直線。
私の技量でも受け止めることが出来る。
だから、受け止めた。
そう、受け止めた、はずだった。
「!?!???!???」
次の瞬間、私は後ろに倒れていた。
それと同時に耳にヒュン、という音が響いた。
「……かはっ!」
遅れて衝撃が腹部に響いた。
胴を打たれたのだと気付いたのはその時になってだった。
「……立てるか、クリス?」
自分の身に気功を打ち込み、内側から回復して、私はやっと起き上がれた。
「い、今のが……」
「今の技を乗り越えて見せよ、でなければ極みには至れぬ」
「……」
ラン兄さんはそう言うけど、私は自分の身に何が起こったのかすらわからなかった。
「……口で説明する訳にもいかぬ。わからぬのなら、何度でも見せよう」
痺れは引いてきた。
だというのに手は震えていた。
私は頭をぶんぶん振って、立ち上がった。
「お願いします!」
防ぐことに神経を使ってる場合ではない。
何としてもこの技を見極める、それでやっとスタートラインなのだ。




