頂の先
翌朝、私はラン兄さんと道場で向かいあい座っていた。
「……クリスよ。何度も言うようだが、長兄殿を探すというのは茨の道になるだろう」
「はい」
「長兄殿は極みに至りし者……極みとは超えることは叶わぬもの、
だとしても、極みに届かねば長兄殿を探すことは困難であろう」
「……」
「おれは他のきょうだい達を差し置いて、父の『剣聖』の名を受け継いだ」
「はい」
「されど……この頂は未だ極みには届いておらぬ」
「……!」
「剣ならば……剣だけであれば、と想っても長兄殿には未だ届いておらぬ」
「……」
「剣だけならば、他の誰にも……他のきょうだい達にも、
現役を退いた父でさえ敵ではないと自負している。
それが『剣聖』としての誇りだ。なれど、『極めし者』には届かなかった。
これが、どういうことか、わかるな?」
「アル兄さんに届くにはラン兄さんを越えなくてはいけない、ということでしょうか?」
「左様。故に……今から、おれが至った最良の太刀を見せよう」
「最良の……太刀」
「そうだ。長兄殿がいる以上、最強とも極みとも名乗ることの出来ぬ。
されど、これを越えねば、長兄殿には届かぬ」
「……」
急に緊張で喉が乾いてきた。
「フ……今、乗り越えよとは言わぬ。それではおれ自身面目が立たぬ」
「あ……は、はい」
「これは宿題と言ったろう?まずは見よ、そして考え、鍛えるがいい」
「は、はいっ!」
「うむ。さぁ、剣を取れ」




