別れの前
王都にはラン兄さんが居て、アル兄さんの情報が入れば連絡がくるのだから、
これ以上、王都に居る意味はなかった。
だから、シンシアさんの無罪が正式に決まった日の夕食、
私はラン兄さんに王都を経つことを伝えた。
「そうか、致し方あるまい」
「お世話になりました、ラン兄さん」
ラン兄さんは、一瞬目を閉じて、言った。
「それを言うのは、まだ早い」
「あ、そうですね、明日改めて――」
「明日の朝、道場に来るがいい」
「え?」
「長兄殿を探すのであれば、君はもっと力をつけねばならない」
「っ!」
「かと言って、長い間ここで稽古を積むわけにもいかぬだろう」
「は、はい……」
「ならば、明日、宿題を与えよう」
「宿題、ですか?」
「うむ。クリスはまだまだ伸びしろがある、課題として宿題を授けよう。
ならば、力をつけるきっかけにはなるだろう」
「わ、わかりました!」
私の感情はラン兄さんが気にかけてくれた嬉しさと、
どんな宿題を与えられるかの不安で半々だった。
「それと、セレーナ殿」
「な、なんでしょうか!?」
不意に声をかけられたセレナは、声がうわずっていた。
「君は、安住の地を探しているのだったな」
「は、はい……」
「この王都はどうかね?」
「え……?」




